明治時代にレガッタの面白さを日本に伝えた神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部
神戸在住、チアフルライターのやまさんです。
「夏は親子でボート体験! 魚崎とHAT神戸でKOBEボート教室開催」の後編スタートです。
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【前編】夏は親子でボート体験! 魚崎とHAT神戸でKOBEボート教室開催
写真:明治34(1901)年、敏馬の浜に建てられた神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部(KR&AC)クラブハウス完成記念式典 提供:KR&AC
後編では神戸におけるレガッタの歴史、そしてKOBEボート教室を主催している「HAT神戸ボートコース設立実行委員会」の活動についてお伝えします。
1274年、イタリアのベネチア(ベニス)で「Festa Nationale della Regata」と呼ばれるゴンドラ以外でのボートレースが開かれました。これがボート競技としては最古とされており、この「Regata」にちなんでボート競技が「レガッタ」と呼ばれるようになりました。
日本ボート協会の「日本のボート略史」によると、安政2(1855)年に長崎海軍伝習所が教科の一つとしてカッター艇の乗艇訓練を行ったそうです。その後の文久元(1861)年、長崎湾で英国商人たちによる「長崎レガッタ」が開催されました。これが日本初の競技用ボートによる日本初のレースとされています。
写真:明治3年12月24日に現在のメリケンパーク辺りで開催された神戸初のレガッタの絵葉書「KOBE’S FIRST REGATTA」。奥に神戸居留地の建物が見えます。写真の説明書きによると、シム氏は睡蓮を意味する「Water Lily」号に乗艇し、コックスとして参戦したとか。KR&ACのレストランで絵葉書を見ることができます。 提供:KR&AC
神戸においては明治3(1870)年、日本で初めてラムネを販売し、神戸外国人居留地で活躍したアレキサンダー・キャメロン・シム氏らが外国人のためのクラブ「神戸リガッタ・アンド・アスレチック・倶楽部(KR&AC)」を発足し、現在のメリケンパーク沖で横浜ローイングクラブとの交流試合を開催。これが神戸で初めて開かれたボート競技会となりました。
KR&ACは日本人との交流を積極的に行い、レガッタのみならず、サッカー、ラグビー、テニス、ゴルフ、登山、マラソン、ボクシング、フェンシングなどの西洋スポーツを日本に紹介・普及する役目を果たしました。
写真:現在旧神戸居留地の東側、磯上公園にあるスポーツクラブKR&ACのクラブハウス。昨年改修工事が行われて綺麗になりました。サッカーやテニス、バスケットボールのスクールやクラブがあり、クラブレストランは非会員でも利用できます。(2018年のチアフルライター通信取材記事)現在の会長は楽天ヴィッセル神戸の副会長、三木谷研一氏。長らく外国人専用のクラブとして運営されていましたが、一般社団法人化された現在では日本人でも利用可能です。
写真:旧神戸居留地の敷地内、神戸市役所1号館前にある「日本マラソン発祥の地」の石碑。ここは例年開催される神戸マラソンのスタート地点でもあります。
その後、大学予備門(現・東京大学)で教員をしていたイギリス人フレデリック・ウィリアム・ストレンジ氏が、学生たちに漕艇を教え始めたことをきっかけに、学生や企業の実業団の間にもボート競技が広がります。明治中期からはレガッタが盛んに行われるようになりました。
神戸におけるボート競技の聖地となった敏馬海岸
写真:大正初期に敏馬(みぬめ)の浜で開かれた端艇競漕大会の様子。当時のボート競技の人気ぶりがわかります。 「神漕(神戸大学漕艇部機関誌)90年の歩み」より
明治38(1905)年、神戸港の拡張に伴いKR&ACはレガッタの拠点を小野浜〜敏馬(みぬめ)海岸に移します。敏馬神社に掲示されている説明によると、KR&ACのクラブハウス建設を機に、ボート・水泳・ヨット・テニスなどの施設も整備され、神戸高等商業学校(現・神戸大学)、関西学院(現・関西学院大学)、兵庫県立第一神戸中学校(現・県立神戸高校)のボート部、水泳部の学生たちが敏馬の浜で練習に汗を流し、昭和14(1939)年まで定期戦、学内・社内対抗、交流試合が盛んに行われました。敏馬の浜には海水浴場のほか、お茶屋、料亭、芝居小屋などが立ち並び、大いに賑わったそうです。
写真:阪神岩屋駅とHAT神戸の間、国道2号線沿いにある敏馬(みぬめ)神社。神功皇后元(169頃)年に建立された由緒ある神社です。6〜7世紀頃この場所は敏馬埼という岬で、東側には敏馬泊と呼ばれた港がありました。レガッタと縁の深い神社で、昭和30(1955)年頃まで最寄りバス停の名前は「敏馬神社前」ではなく「ボートハウス前」だったとか。
阪神春日野道駅の通路に掲示されている昭和30(1955)年代前半の春日野道駅周辺の写真。工場が立ち並び、その間を国鉄の貨物線が通っています。
昭和12(1937)年に始まった日中戦争の長期化に伴い軍需工場が拡張したため、ボート競技は中断せざるを得なくなりました。第二次世界大戦後、神戸におけるボート活動の拠点は加古川、須磨海岸、芦屋浜、武庫川、大阪などへと分散してしまいました。
HAT神戸を元気にしたい! ボートの愛好家たちがボートコース設立委員会を発足
写真:神戸港を望むHAT神戸のなぎさ公園。手前のビルから人と防災未来センター、JICA関西、国際健康開発センター、兵庫県立美術館。その奥には摩耶シーサイドプレイスなどの団地が見えます。
HAT神戸は昭和7(1932)年~30(1955)年の間に敏馬の浜が徐々に埋め立てられてできた場所です。元は神戸製鋼所や川崎製鉄の工場が立ち並ぶ工場地帯でしたが、平成7(1995)年の阪神淡路大震災後、被災した住民の復興住宅団地として整備され、東部新都心「HAT神戸」と名付けられました。「HAT」は「Happy Active Town」の頭文字を組み合わせたもので、摩耶山の南、ウォーターフロントに開けるこの地域が、ハッと変貌し、誰もが幸福で、活気あふれる街となるように願いを込めて命名されたそうです。(道谷卓著『神戸歴史トリップ』より)
そんなHAT神戸ですが、最近では団地の高齢化が進んでいるのだそうです。その状況を知ったボート愛好家たちの間に「大学の学内レガッタや、各種のボート大会を開催して、HAT神戸を若者の集まる賑やかで元気な街にしよう」との話が持ち上がりました。2005年から準備が進められ、兵庫県ボート協会と神戸市漕艇連盟を中心に2013年3月「HAT神戸ボートコース設立実行委員会」が発足しました。
全国の港で、そして神戸で着々と進行中のウォーターフロント再開発プロジェクト
図: 『港都 神戸』グランドデザイン~都心・ウォーターフロントの将来構想
~より都心・ウォーターフロントにおけるゾーニング 神戸市HP
現在、神戸市では港湾施設などのあるウォーターフロントを人のにぎわいを生み出す魅力的な空間へと変えるべく、様々なプロジェクトが進行中です。2021年には新神戸駅からメリケンパーク、中突堤、ハーバーランドを結ぶ連節バス「ポートループ」が運行を開始、第1突堤前に劇場型アクアリウム「átoa(アトア)」、「フェリシモ チョコレート ミュージアム」がオープンしました。また、第一突堤には2015年に開業した「神戸みなと温泉 蓮」があり、第二突堤には2024年にマリンスポーツ・レジャーの拠点となる「神戸アリーナ」が開業する予定です。中突堤にある神戸タワーも2023年夏の再開を目指してリニューアル工事中です。
これらのプロジェクトは2011年に神戸市により発表された『港都 神戸』グランドデザインに基づき進められているものです。HAT神戸は上図「都心・ウォーターフロントにおけるゾーニング」の東ゾーン(新たな都心生活提案ゾーン)にあり、第一突堤やメリケンパーク同様にリニューアルが進行中です。HAT神戸には住宅団地、保育園・小・中学校、病院といった基本的な居住施設のほか、映画館を併設したショッピングモール「ブルメールHAT神戸」、スーパー温泉「なぎさの湯」などの商業施設、兵庫県立美術館、WHO神戸センター、国際協力機関「JICA関西」、人と防災未来センターなどの文化施設が充実しています。さらに海岸沿いには親水空間としてなぎさ公園、脇浜海岸通公園、プロムナードが整備され、海を身近に感じることのできる空間があります。同グランドデザインでは、新しいコミュニティと文化を育むまちづくりや、前面の海の水面活用などの賑わいづくりを進めていく予定です。
みなとオアシス神戸全体図
神戸市では2010年に灘区から兵庫区までのウォーターフロント一帯が「みなとオアシスKOBE」、2017年に須磨海岸一帯が「みなとオアシス須磨」として登録されました。これは、全国の港に関する交流施設・旅客ターミナル・緑地・マリーナなどを活用した交流拠点・地区を「みなとオアシス」として登録するもので、「地域住民や観光客が交流できる空間を有すること」「地域住民参加のもとでみなとの賑わいを作り出すイベントなどの活動が継続的に行われていること」などを条件としており、現在全国155ヶ所が登録されています。
HAT神戸の沿岸部にあたる「なぎさ公園」は「みなとオアシスKOBE」を構成する施設のひとつ。「みなとオアシスKOBE」として、また『港都 神戸』の一部として、今後目の離せないエリアです。
レガッタでHAT神戸のウォーターフロントをお祭り空間に
写真:2021年10月24日に開催された「HATこうべレガッタ・フェスティバル」の様子。太鼓を叩いているのは甲南大学和太鼓サークルの皆さん。 提供:髙橋氏
HAT神戸では2016年から毎年10月に「HATこうべレガッタ・フェスティバル」が開催されています。これはHAT神戸ボートコース設立委員会となぎさふれあいの街づくり協議会が協力して開くイベントで、委員会が「海のにぎわい」としてレガッタを担当し、協議会が「陸のにぎわい」として野外特設ステージでの様々なゲストによるパフォーマンスを担当、一緒にお祭り空間を作り上げるものです。
これまでにステージでには地元なぎさ小学校合唱部、ベトナム・中国・ペルー・ブラジルなどのダンスチーム、大学のサークル、バンドなどが出演し、2021年にはキッチンカーの出店もありました。
写真:2021年のHAT神戸レガッタの様子。提供:髙橋氏
HAT神戸レガッタの運営を手伝っているのは神戸高校ボート部、東灘高校ボート部、兵庫県ボート協会、その他ボートクラブの有志の方たちです。出場者は神戸、京都、滋賀、大阪などのボートクラブメンバー、神戸高校・東灘高校ボート部員、また個人で参加する大学生などもいるそうです。HAT神戸レガッタの参加者数も年を追うごとに増えています。2017年の神戸開港150周年イベントには横浜、名古屋、長崎からクルーが集合、海外の学生や地元の子供達も加わり、団体数36、クルー70名、トータルで280名が参加しました。オープニングセレモニーでは神戸市消防局の消防艇がレインボーカラーの放水を行い、イベントは大成功を収めました。
写真提供:髙橋氏
「行政区が灘区、中央区と2つに分かれているHAT神戸、そして現在近隣高校漕艇部の練習場となっている魚崎運河のある東灘区の住民や企業をつなぐ横ぐしとして、さらには新都市における祭り的連帯として、HAT神戸レガッタを地域に愛されるものに育てていきたいと思っています」と委員会事務局の髙橋さん。「ボート競技のコースを設けるためには、規定の距離が必要です。HAT神戸と摩耶埠頭に挟まれた水域はギリギリその課題をクリアしており、しかも狭い水域なので観客の間近で迫力あるレースを観戦することができます。沢山の人が盛り上がる、賑やかな空間作りの手法としてレガッタは最高のスポーツだと思っています」
写真:レガッタと同時にローイングマシン記録会も開催されました。これは陸上でおこなわれるもので、マシンにパソコンを繋いで記録を取り、参加者の勝敗が決められます。この日は一般客によるボート試乗会も行われました。 提供:髙橋氏
かつての神戸レガッタの聖地でボート競技を再び
写真:2021年、神戸市の援助によりKOBEボート教室HAT神戸会場に完成したボート専用スロープ。
提供:髙橋氏
髙橋さんは神戸大学入学と同時に漕艇部に入部、以来ずっとボートに関わってきたそうです。「神戸大学の漕艇部は淀川で練習をやるんですが、新入部員がボートに乗って最初にやることは、手を水に浸けることなんです。普段都会で生活していて自然と触れ合うことってないですよね。水の中から街を眺めるなんて経験もボートじゃないとできない。ボートは都会の住人でも自然と親しむことができる数少ないアウトドアスポーツなんですよ。」
「漕艇競技はクルーが一体になることが求められるスポーツで、クルーはコックスの指示に絶対服従する必要があるんです。皆がバラバラだとボートが転覆したり、ボート同士が接触したりする危険がありますから。そうして一体となったチームで他のチームと勝利を競い合うわけです。ですから、クルーの間には強い一体感が生まれ、一度チームを組んだ相手は生涯の友人になります。その点がボート競技最大の特徴であり魅力だと思います」
写真:2021年KOBEボート教室HAT神戸会場の様子。この年は、子供から60代までの合計147名が参加、ボート体験を楽しみました。 提供:髙橋氏
「HAT神戸のある場所、そこはかつて神戸外国人居留地の外国人や漕艇部の学生、企業の実業団チームが互いに競い合った小野浜や敏馬海岸があった神戸ボート発祥の地です。私達にはボートの聖地であった同じ場所でレガッタを復活させたいという思いもあります。委員会では今後海洋スポーツ振興・育成のための発信基地「HAT神戸交流会館」を作り、地元の皆さんと共にボート遊びやレガッタ、その他のスポーツを通して交流を深めるとともに、各地のボート愛好者との交流を図るスポーツツーリズムなども推進していきたいと考えています。陸の神戸マラソンと同様、海の神戸レガッタと呼ばれるように、HAT神戸をますます盛り上げていきたいと思っています。」
※スポーツツーリズム:スポーツ資源とツーリズムを融合する取り組みのことで、地域スポーツコミッション組織が窓口となり、地域の魅力発信や大会・合宿誘致などPRを行いながら、利用者のニーズに対応、スポーツと観光関連組織の連携や調整を行う。
10月30日にHAT神戸レガッタ開催
10月30日(日曜日)にはHAT神戸東側、県立美術館前で「HAT神戸レガッタ」が開催されます。日本ボート協会が定めるボート競技には、8名の漕手による「エイト」から1名の漕手による「シングルスカル」まで10種類の種目がありますが、HAT神戸レガッタの出場種目はシングルスカル・漕手2名によるダブルスカル・漕手4名によるナックルフォアの3種目です。ボート部員の学生さん、地元のボートクラブや会社の漕艇部に所属してる方は是非応募してみてくださいね。同大会ではボランティアも募集しています。また、ボート初心者のために「お披露目レース」といわれるエキシビションが開かれます。間近で迫力あるボート競技が見られるめったに無いチャンスですから、ボート経験のない方も是非おでかけください。
【情報】
HAT神戸レガッタ
開催日:10月30日
開催時刻:8:00~
最寄駅:阪神岩屋駅から徒歩15分
会場:神戸市中央区脇浜海岸通1-1
兵庫県立美術館南側水域特設コース
【HAT神戸ボートコース設立実行委員会】
HAT神戸ボートコース設立委員会【HAT神戸レガッタ】 twitter
【参考】
海外のスポーツ文化を伝え続けて150年 神戸っ子2020年4月号
KOBEボート教室のしおり
神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部会報 2018年秋号
文/チアフルライター やまさん
【前編】はこちら
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