沿線お役立ちコラム

月見里公園のSLが輝く!C11-311号機のクリスマスイルミネーション@甲子園

甲子園球場そばの月見里公園にクリスマス仕様のキラキラSLがお目見え

甲子園球場の南、徒歩3分の場所にある月見里公園。キッザニア甲子園やららぽーと甲子園からもほど近く、自治会により手入れされたグラウンドと遊具を備えた遊び場があります。毎日地元の子どもたちの歓声が絶えず、地元民から長年愛されている公園です。

写真:自治会により整備された月見里公園。ケージの中に保存されているC11-311

この公園には48年前からC11型蒸気機関車311号機(C11-311)が静態保存されています。この12月3日、C11-311を愛する有志「甲子園SL鐵道保存協力会」の皆さんにより、車体にイルミネーションが施され、日暮れから21時頃までクリスマスバージョンの幻想的な姿を披露、近隣の人々の目を楽しませています。

写真:手前のデフレクター(除煙板)に貼り付けられたたくさんの飾りは、12月1日に甲子園駅前で開催された音楽イベント『こうしえんまちなかフェス2024 GREEN SOUND STADIUM』のキッズブースで子供たちに作ってもらったクリスマスの飾りです。

写真:遠くから全体を見たところ。イルミネーションは小型のソーラー電池に充電され、日暮れになると自動点灯、電池が切れる21時頃に自動消灯するそう。

C11形311号機が月見里公園にやってきた理由

写真: 播但仁豊野駅を発車した現役時代のC11-311号機(甲子園自治会より提供)

国鉄C11型蒸気機関車は1932年に鉄道省により製造が開始されたタンク式蒸気機関車です。神戸駅前のD51-1071号機大物公園のD51-8号機のような機関車に炭水車を連結したテンダー機関車とは違い、タンク機関車は機関車に石炭庫と水タンクを搭載したコンパクトな仕様。C型は車輪が片側に3つつき、主として客車を連結します。同型は1947年までに合計381輛製造され、主として西日本各地で蒸気機関車の運用末期まで数多くが活躍しました。現在、同型の機関車では6輌が動態保存、日本各地でイベント時に運用されています。静態保存車は44輛あり、なかでも京都鉄道博物館に保存されているC11-64号機は準鉄道記念物に指定され、2021年9月には、きかんしゃトーマスの姿でお披露目されました。

写真:ケージに掲示されているC11-311号機の車歴と月見里公園に設置された当時の新聞記事

C11-311号機は1945年12月に誕生した30輛のうちの1輛で、C11型のなかでも末期に制作されました。C11型には4つの形態があり、同機は資材と工数を節約した戦時節約形(4次形)。名古屋の日本車輌で製造され、翌年の1月に国鉄に納入され、客車と貨物車の両方を牽引し、広島を降り出しに山口、岡山、姫路などで活躍しました。国鉄の貨物線があった頃の阪神武庫川線で運用されたこともあるそうです。最後は京都の梅小路機関区に配属となり、現役時約109万8千キロを駆け抜けた同車輌は1976年3月、国内の蒸気機関車の日常運用終了とともにその役目を終えました。

この時期に西宮市の甲子園自治会から大阪鉄道管理局に対し「SLをこどもたちの生きた教材にしたい」と、同車輌の無償貸与の請願があり、廃車となったC11-311号機は須磨区の鷹取工場(2000年に廃止)で化粧直し整備を施され、1976年11月に東海道本線とトレーラーにより移送、現在の月見里公園で第二の人生を送ることとなりました。

現在、約600輛の蒸気機関車が廃棄されることなく、全国の様々な公園や駅前に静態保存されています。その理由は、SLと長年慣れ親しんだ多くの自治体が、機関車の解体を惜しみ、永久貸与という形で譲り受けたいと希望したからだそうです。国鉄側でも、飾るだけだからとそのまま現地に運ぶのではなく、工場で1輛1輛入念に整備や塗装を施した後、各地に送り出したようです。

SLファン有志の呼びかけで再び蘇ったC11-311

写真:3年前の塗装の剥がれや錆が目立つ車体(2021年12月11日撮影)

「月見里公園のSLを一刻も早く整備してあげたい」と話してくださったのは、全国で静態保存されているSLの保全活動に取り組む中山さんです。中山さんは大物公園の八っちゃん(D51-8)の保全・保護活動を行っている「尼崎デゴイチの会」の一員です。今から約2年前、八っちゃんの取材でお会いしたときに、C11-311の傷みが進んでいるのをとても気にされ、西宮市と月見里公園の管理を行っている甲子園町自治会に車体の修理をさせてもらえるよう、掛け合っていると話していました。

上の写真は、やまさんが3年前に撮影したC11-311です。これは、2021年12月に神戸駅前で開催された「D51まつり」で、「阪神間には他にも何輛か蒸気機関車が静態保存されている」と聞いて見に行ったときのもの。公園ではたくさんの子供たちが遊んでいましたが、檻の中でボロボロになったC11-311に興味を示す子どもは一人もおらず、可愛そうな気持ちになったことを覚えています。

C11-311は、月見里公園に引っ越して以来48年もの長い間、屋根付きの頑丈なケージの中で大切に保存されてきましたが、車体のメンテナンスについては長らく手つかずで、風雨による劣化が進んでいました。「このままでは同機が廃車になってしまうかもしれない」と、その状況を憂えていた中山さんをはじめとしたSLファンの有志たちは、長い時間をかけて西宮市と話し合いました。その努力が実り、ついに今年の6月6日、現地公園にて有志の人たちと西宮市の間で覚書が締結され、月見里公園を管理してる甲子園町自治会とも連携を図り、C11-311号機のメンテナンスを行うとともに、同機を活用した地域活性化が図られる運びとなりました。覚書の締結と並行して、保守活動に従事することになった有志たちは「甲子園SL鐵道保存協力会」を結成、早速車体の修復に取り掛かります。

写真:7月7日から本格的な作業開始。猛暑の中、ひたすら古い塗装を剥がすケレン作業が続きます。(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

「架線注意」の手書き修復(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

きれいになった下地に塗装を施します。(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

磨き上げられ、復活したナンバープレート!(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

運転室の窓の下に手書きの「姫一」の区名札が蘇りました。区名札とは、その機関車がどの機関区に所属しているかを表すもので、「姫一」は姫路第一機関区の略称。C11-311が1951年から72年まで、最後に営業所属をしていた機関区だそうです。

見てください、輝くこの塗装。C11-311はメンバーの間で「みちょちょん」と呼ばれているのだとか。正式な愛称はまだ決まっていないそう。(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

今年8月24日、月見里公園にて、甲子園自治会主催による「月見里勝鬨地蔵尊祭り」が開催されました。これに併せて甲子園SL鐵道保存協力会でもC11-311号機に日章旗と勝鬨地蔵尊のヘッドマークを飾り付け、前面柵を外しての撮影会を行いました。協力会のメンバーの皆さんも感慨ひとしおだったかと思います。この日、公園のグラウンドを使用して、メンバーの所有するミニ新幹線の運転乗車会も開かれました。地域の子供たちもC11-311の存在に改めて興味を持ったのではないでしょうか?

全体像。ケージ内が狭いため、撮影が難しかったです。実は車体がケージの前方に寄っているのですが、これは1995年の阪神・淡路大震災の衝撃で車体が1メートルほど移動してしまったためだそう。

車輌後部もピカピカです。

当日は会の方に特別にケージの中に入らせていただきました。機関室の威容が往時を忍ばせます。外観の修繕はかなり進みましたが、まだまだ手入れの必要な箇所が多いそうです。現在、一般人はケージの中に入れませんが、「ゆくゆくは子供たちのために車内見学を」とのことです。

こうしえんまちなかフェス 2024 GREEN SOUND STADIUMに参加

今月1日、阪神電車甲子園駅前広場にて、「甲子園を音楽の街に!」の掛け声のもと『こうしえんまちなかフェス2024 GREEN SOUND STADIUM』が開催されました。この大々的な音楽イベントは甲子園町自治会長でもあるフェス実行委員会代表岡本理恵さんの呼びかけにより発足したもの。岡本さんは西宮さくらFMのパーソナリティー、ムーチョ名義でのアーティスト活動など、幅広く活躍されています。月見里公園繋がりで甲子園SL鐵道保存協力会もイベントを盛り上げるため、一役買うことになったそうです。冬晴れの温かいこの日、メインステージとサブステージではバンドやアーティストによる演奏が披露され、フード&ドリンクブース、物販ブースもあって、沢山の人が楽しんでいました。写真で演奏しているの、はアメリカから参加のSassafras Bluegrass Band。

こちらはキッズブースでの一コマ。甲子園SL鐵道保存協力会のメンバーによるミニ新幹線乗車会です。

別ブースでお菓子とホットドリンクを購入するとミニ新幹線の乗車チケットがもらえます。これはミニ新幹線の受付窓口。各地で保存協力会のメンバーが撮影した蒸気機関車も展示されています。

乗車券は大きな硬券の形になっていました。鉄道マニアはこういう細部にもこだわるのだなあと感心しました。乗車時には本物の改札鋏でパンチしてくれましたよ。自動改札しか知らない子供たちには嬉しいのではないでしょうか?やまさんはその昔、朝の大阪駅の改札口で華麗な鋏さばきを見せる駅員さんたちを思い出してしまいました。

やまさんも乗せていただきましたよ。

蒸気機関車が走っていた頃に使用されたアイテムの展示もありました。左の輪っかのようなものはタブレットと呼ばれる列車の正面衝突防止システムで、このタブレットを列車の乗務員が駅員さんに受け渡す一場面がかっこよく、鉄道ファンの間でとても人気があります。この日助っ人で参加していた尼崎デゴイチの会の会長、田原さんも「このタブレットのシステムは本当にすごい」と仰っていました。

鉄道保存会と助っ人の皆さんが何やら興味深げに集まっています。この日は鉄道好きのお友達もイベント見学にやって来て、鉄談義に花を咲かせていました。

子供たちにC11-311に飾るオーナメントを作ってもらっているところです。「私も作りたい!」とお母さんにお願いしている女の子もいました。

写真:子供たちが作った飾り。(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

写真:甲子園SL鐵道保存協力会と助っ人の皆さん(甲子園SL鐵道協力会より提供)

サブステージでパフォーマンス中のアカペラコーラスグループMixberry。西城秀樹の「ヤングマン」や和田アキ子のメドレーで盛り上がっていました。今回の『GREEN SOUND STADIUM』の開催は今年で2回目。甲子園では西宮市と協力し、「バンド甲子園」や「アカペラ甲子園」といった音楽イベントも開かれているそう。甲子園がさらに音楽で溢れる街になり、人々の交流が盛んになると良いですね。

産業遺産を未来の世代へ

写真:12月10日には、機関室の窓辺にサンタさんやトナカイもやってきました。(甲子園SL鐵道保存協力会より提供)

 

12月3日の試験点灯には、公園の近所に住む住民の方も見学に来ており、「子どもの頃にC11-311号機がこの公園にやってきた時の除幕式を見た」と話してくれました。その方も鉄道マニアで、全国の鉄道を見て回り、御朱印の鉄道版「鉄印」を集めているそう。「この冬でコンプリートする予定」と嬉しそうでした。甲子園SL鐵道保存協力会の会長である竹田祥教(よしのり)さんも公園の近所にお住まいだそうです。地元住民と鉄道好きの人々が力を合わせてC11-311を再び蘇らせることができ、感慨もひとしおだと思います。

甲子園町自治会によるC11-311入庫式日の記念碑には「わが国が今日の文化の隆盛、産業経済発展の原動力としての蒸気機関車の活躍と功績を決っして忘れてはならない」と刻まれています。現在、国内に残されている蒸気機関車1輛1輌が大切な産業遺産であることを改めて思い起こさせてくれる言葉です。

長い間顧みられることのなかったC11-311号機が鉄道ファンの手により美しく蘇り、折々に地元の子供たちの記憶に残るモニュメントとして、これからも受け継がれてくれるといいなと感じたやまさんでした。

【情報】

月見里公園のC11-311号機クリスマス仕様イルミネーション

アドレス:西宮市甲子園町21-12

アクセス:甲子園駅から徒歩10分

点灯期間:12/3〜12/25

点灯時間:日没〜21:00頃まで

甲子園SL鐵道保存協力会Facebook

こうしえんまちなかフェス GREEN SOUND STADIUM

※年末年始は日章旗を飾ったお正月仕様に変身するそうです。