沿線お役立ちコラム

尼崎中央商店街のコミュニティカフェOhanaでお医者さんから在宅医療について学ぶ

尼崎の商店街で在宅医療について考えるイベントが開かれました

神戸在住のチアフルライターやまさんです。

今年の6月10日、尼崎中央商店街にあるカフェOhanaで三和クリニックの院長先生による在宅医療についての説明会が開かれました。OhanaはNPO法人として2022年の11月にオープンした地域住民のためのコミュニティースペース。通常はカフェ営業をしていますが、イベントスペースとしても活用されており、講習会、講演会、展示会、ライブなどが定期的に開かれています。今年の3月には尼崎城三人衆の卒業コンサートも開催されました

そんな活動のひとつとして、Ohanaから徒歩4分の三和クリニック(旧長尾クリニック)院長である豊國剛大さんによる在宅医療説明会が開催されました。

 

病院って健康問題や治療法、医療制度などについて不安や疑問があっても、診察や治療に多忙なお医者さんや看護師さんをつかまえて質問するのはなかなか難しいですよね。その一方で、患者さんの困りごとを聞いてあげる十分な時間がとれていないということについては医療者側も感じており、三和クリニックでもそういう話ができる場があればと思っていたそうです。そこで今回、Ohanaが両者の橋渡しをすることになりました。

やっぱりおうちに帰りたい ― 終末医療について考えてみませんか?

三和クリニック(旧称・長尾クリニック)では前院長の長尾和宏さんが28年間まちのクリニックとして地域の人々の医療に携わってきました。長尾医師は長年在宅での終末医療を推進しており、高齢者や死期の迫った患者さんが、病院やホスピスではなく、自宅で家族に看取られながら安心して介護を受けられる医療体制づくりを進めてきました。今回はそうした医療の現場から在宅医療とはどんなものか、手続き方法やかかる費用などについて詳しいお話を伺うことができました。

 

今回の講演で在宅医療についてお話してくれたのは長尾院長の後任である豊國剛大院長。院長は個人的体験として祖母を在宅で看取っているそうです。

図:健康ひょうご21県民運動ポータルサイトより

 

厚生労働省のデータによると、2021年の日本人平均寿命は男性が81歳、女性が88歳。1947~1950年頃、戦後の第一次ベビーブームにおいて誕生した団塊の世代が高齢化を迎え、日本は「多死社会」へと向かいつつあるそうです。やまさんの両親も80歳を過ぎており、いつ介護の話がでてもおかしくない状態。皆さんのなかにも親の老後について準備しなくてはとお考えの方や、既に介護の真っ最中の方もおられることと思います。親の介護は40代・50代の子供世代とって喫緊の課題になっているんですね。

 

尼崎市で行われたアンケートによると、6割が「我が家で最後まで過ごしたい」と回答したそうです。病院や介護施設ですと、寝起きや食事にも決まりや制限があり、被介護者にとってはなにかと窮屈なことも。ですが、実際には7〜8割の高齢者が病院で看取られており、在宅で最後を迎えることができた人は僅か1割。医療機関で最後を迎える人が多い理由は、高齢者の多くが家族に迷惑をかけまいと、自ら入院や介護施設への入所を選択するから。しかし、公的機関、地域、医療機関が高齢者の家族と密接に連携を図ることができれば、在宅での看取りも十分可能なのだそうです。例えば、高齢者が「持病があるけれど、体力的に弱ってきたため通院が大変。けれど同居している家族との残り少ない生活を大切にしたいので入院はしたくない」と考えた時、医師、看護師に往診してもらい、家族が安心して最後の看取りまでできるのが「在宅医療」というシステム。

 

在宅医療では、医師や看護師が1日24時間、365日いつでも対応してくれるそうです。体調が安定しているときは週に1〜2回の訪問診療・看護を受け、急に具合が悪くなったときにはその都度医師や看護師の往診を受けることができます。在宅医療に切り替えると病院では診てくれなくなる、なんてこともありません。ガンなどの慢性疾患治療や誤嚥性肺炎などの緊急時は大きな病院で治療を受けるといった二本柱体制での治療をうけることができるそう。医師や看護師以外にも、歯科衛生士、薬剤師、ホームヘルパー、介護福祉士、管理栄養士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、理髪師などの訪問サービスも受けられるそうです。介護保険を使って家の中に手すりなどをつける介護リフォーム、入浴介助やリハビリ、レクリエーション、宿泊サービスを受けられるデイサービス・デイケアへの通所も可能です。驚いたことに、一人暮らしの高齢者でも在宅医療は十分可能で、利用者もけっこう多いのだそうです。

 

親の介護をする家族の中には、どこへ相談したら良いか分からず、金銭面、心身面で疲弊している人も多いと思います。豊國院長は「家族の介護で困った時は、ぜひ地元の地域包括支援センターやケアマネージャーがいる施設を頼って欲しい」と言います。ケアマネージャーとは、要介護・要支援認定を受けた人のケアマネジメントを行う介護支援のスペシャリスト。被介護者や家族がどのように介護体制を整えていったらよいか相談に乗ってくれます。各市町村の役所にも高齢者支援についての相談窓口がありますので、家族や本人が1人で抱え込まず、とにかく自治体の窓口へ連絡を取ってみてください。どうすれば認定を受けられるかについても相談に乗ってもらえます。

 

介護が始まる前から準備を整えておくことも大切です。在宅医療になった場合、かかりつけのお医者さんを指定しなければなりません。お医者さんとはいえ人間ですから、利用者さんとの相性というのがあるそうです。後々「こんなはずではなかった」とならないよう、日頃からまちのクリニックで相性が合いそうなお医者さんを見つけておくことが満足のいく在宅医療の鍵となるそうです。

終末医療を受ける上で大切なこととは?

医療や介護などをみんなで支える地域包括ケアシステムの「植木鉢」図

出典:平成28年3月地域包括ケア研究会報告書より 厚生労働省

 

厚生労働省のHPによると、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しているそうです。上図は地域包括ケアシステムのイメージ図。これによると、被介護者本人の選択がシステムの土台となっています。

 

豊國院長によると、介護においては介護を受ける本人の意思・気持ちが最も大切なもので、これを基礎としてケアシステムを作り上げていく必要があるそうです。では、被介護者の意思を汲んだケアをするためにはどんな準備が必要なのでしょうか?

 

1.本人の頭がはっきりしているうちに「リビング・ウィル」を作成しておくこと

2.「人生会議」をしておくこと

3.「エンディングノート」を活用すること

 

リビング・ウィルとは、事前に医療・ケアの選択について意思表示しておく文書です。例えば、口を使っての食事ができなくなったとき、お腹に穴を開けて胃に直接養分を送り込む胃ろうを作ってほしいか、自発呼吸ができなくなっても延命治療を続けてほしいかなどです。リビング・ウイルを作成し提示することにより、被介護者の希望が家族や医療関係者に伝わり、その結果、被介護者の生き方が最期まで尊重されることになります。

 

人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)とは、リビング・ウィルをもとに、医療・ケアチームやアドバイザーなどから十分な説明を受け、家族を含めた話し合いを繰り返し、より良い選択をすることです。

 

エンディングノートとは、自分自身に万一の事があったときに備えて、自分の情報や財産状況、家族に対する想い、残りの人生でやりたいことなどをまとめたノートのことです。遺言書と違って法的な効力はありませんが、本人に終末期が訪れた時、家族や親しい人たちへ自身の気持ちや意思を伝えることができます。上記3点をしっかり準備しておくことで、被介護者は安心して終末期を迎えることができます。

 

また、長尾和宏元院長が主演したドキュメンタリー映画『けったいな町医者』には、長尾和宏医師が唱えている「平穏死5つの要件」が出てきます。「平穏死」とは特別養護老人ホームの医師、石飛幸三さんが自著『「平穏死」のすすめー口から食べられなくなったらどうしますか』で使用し広まった言葉で、高齢者や死期の迫った患者に無理な延命治療を施さず、できるだけ自然な状態に任せ苦痛なく平穏な最後を迎える、死の迎え方のことです。

 

1.最後を迎える場所が「本人が希望する場所」であること

2.緩和医療の恩恵を受け、苦痛がない(少ない)こと

3.楽しみや笑いがある「穏やかな生活」を送れていること

4.患者さん本人が「死の恐怖」に怯えていないこと

5.患者さん本人が「現状に満足・納得」していること

 

これらを被介護者や家族が理解し準備しておくことが苦しむことなく穏やな最後「平穏死」を迎えるために必要なことなのだそうです。「リビング・ウィル」「人生会議」「エンディングノート」を活用して被介護者とその家族が悔いのない終末医療を受けられるとよいですね。

 

講演会の最後には、三和クリニックによる在宅医療を受けながら自宅で母親の看取りをしたご家族も登壇、貴重な体験談を聞くことができました。

街場の隠れ家スポット、癒やしの空間Ohana

ハワイ語で「絆」を意味するNPO法人Ohanaを運営しているのは尼崎中央商店街に店舗を構えて36年になる宝石店の「Hanako」。1年前に隣の賃貸店舗から土地を購入して引っ越しをした時、引越し先に築100年以上の古民家が付いてきたそうです。社員寮を建てようと解体を始めたところ、立派な梁が現れました。これを壊してしまうのはもったいないと、お世話になっているお客様への恩返しのつもりでコミュニティースペースにすることを思いついたそうです。大阪で別事業として飲食店を経営してきたノウハウがあったことから、通常はカフェとして運営されています。商店街の裏手にあるため、利益は見込めないと思っていましたが、落ち着いてくつろげる静かな空間ということで、Ohanaには連日近隣からたくさんのお客さんがやって来ます。

日替わりランチ「カニとエビのビスクオムライス」。ドリンク付きで800円。

こちらはケーキとドリンクのセット700円。

商店街の良さを活かし、地元の人達の交流の場をー社長森洋子さんの思いとは

Ohanaを運営しているのは宝石店の「Hanako」。一見すると喫茶店のようにも見えます。現在店頭ではパンナコッタの販売も行っており、宝石を買いに来たお客さんは右手の喫茶コーナーでコーヒーを飲みながらゆっくりと商品を選ぶことができます。気取らず気さくで明るい下町の宝石店です。

 

尼崎市には、阪神尼崎駅から出屋敷駅まで約2kmに渡り尼崎中央商店街、三和市場、出屋敷商店街と呼ばれる長い長い商店街群が連なっています。その歴史は古く、戦前の公設市場である三和市場を起源とします。戦後には新三和商店街、三和本通りと呼ばれる闇市が誕生、続く高度経済成長期には市外から大量の労働者が流入したことにより、商店街は東西へと拡大を続けました。郊外型のショッピングモールや大手スーパーが増えるに従い、1980年代後半から地元の商店街や市場が衰退しつつあると言われて久しいですが、ここ尼崎中央商店街は今も変わらず昔ながらの下町の商店街として人通りが絶えることはありません。

 

尼崎中央商店街に店舗を構えるHanakoには、先代社長の頃から人を大切にするという理念がありました。そうした経営理念がHanakoの経営方針に十二分に発揮され、「これ作ったからちょっと食べて」と、近所のお客さんが自分で作ったおかずやおやつをしょっちゅう持ってきてくれるほどスタッフとお客さんとの距離が近いのだそうです。Hanakoの現社長、森洋子さんはOhanaをオープンするにあたり、ここを医療、介護、保育など、くらしの悩みや困りごとを来た人同士が気軽に相談し話し合える場にしようと思ったそうです。これまでOhanaでは近隣住民同士を繋ぐ場を提供する一方で、健康体操教室、現役の警察官による特殊詐欺防止講演会、近隣病院の医師、栄養管理士、看護師、理学療法士による講演会など、地元の人達の安全や健康を意識した社会福祉的なイベントを数多く開いてきました。

Ohanaでは子育てに奮闘中のママを応援しようと、今年の9月から赤ちゃんの見守り付きでカイロプラティックやヘッドマッサージを受けられるイベントを開催します。育児で大変なママさん、是非日頃の疲れを癒やしに行ってみてくださいね。

 

「Ohanaに来れば親同士、子供同士が交流できます。例えば高齢の女性がお母さんの連れている子供を褒めるちょっとした一言で、育児に悩む母親の気持ちが晴れることもあります。ここでは、学校や家庭、職場、近所などのしがらみや利害関係のない人同士が触れ合うことができ、何気ない会話の中で孤立しがちな人が安心できる関係が生まれます」と森社長。

 

「商店街はアーケードがあって雨風がしのげるし、人通りも多く、比較的安全ですから、子供の見守りには理想的です。商店で働く人達は意外と通りをよく見ていて、誰がいつどの店を利用しているかを把握しています。普段と様子が違う、何日も姿を見ないなどちょっとした変化にも気づいています。商店街なら私達商店主が、子供たちや高齢者を見守るという意識もなく自然と見守ることができるんですよ」

庶民的な宝石店「Hanako」を形作ってきたお客さんとの出会い

写真:森社長と社員の皆さん。HanakoとOhanaの接客を同時並行で行っています。いつ行っても明るく親切にもてなしてくださいます。

 

森社長はHanakoを長年経営する間に様々な人間模様を目の当たりにしてきたそうです。そんな出来事の中から今でも忘れられないエピソードをいくつか話してくださいました。

 

Hanakoでは少し前まで店頭で焼き芋の販売もしていたそうです。「当時、しょっちゅう買いに来てくれるおばあちゃんがいて、ある日『あなたがこうして声をかけてくれることで生きてると思える』と言われたんです。それくらい普段の生活では会話の少ない人もいるんですね。その言葉を聞いて以来、私達もお客さんにもっと話しかけてお客さんとの絆を今まで以上に大切にしていこうと思いました」

 

さらに、今から28年前の阪神淡路大震災の起こった年のことです。家屋は全壊、家族や友人を失ったお客さんが避難所から支援金を手にリュックひとつで現れ「お店は大丈夫?」と震災見舞いに来られたそうです。さらに驚いたことに「私、これからは自分のやりたいことをしたいの」とお店の宝石を購入し、晴れ晴れとした笑顔を見せたのだそうです。森社長はお客さんのこの言葉を今でも大切にしているそうです。

36年も同じ場所でHanakoを経営していると、子供の頃に来た人が成長して結婚指輪を買いに来ることもあり、そんなときは成長した我が子を見るような気持ちになるそうです。また、Hanakoでは社員全員入社以来辞めた人は1人もいないそうで、ほとんどのスタッフが在社歴30年以上になるそうです。「多分皆死ぬまで居てくれると思います」という森社長の言葉がとても印象的でした。

 

Ohana

アクセス:尼崎市神田中通5-196 尼崎中央商店街

電話:06-4950-4400

営業時間:11:00〜18:00

定休日:木曜日

 

 

【イベント★ママのためのカイロプラティック&ヘッドマッサージ】

開催場所:Ohana

開催日時:9/7、10/5、11/2、12/7 11:00〜15:00

カイロプラティック:20分 1,000円

ヘッドマッサージ:20分 1,000円

ランチ500円+0〜3歳までのお子さんの見守り付き

電話:06-6411-7124

注:要予約 各回10名まで

 

Hanako

アクセス:尼崎市神田中通5-196

電話:06-6411-7124

営業時間:10:30〜19:00

定休日:隔週木曜日

 

【参考】

尼崎市在宅医療ハンドブック

ゼロから始める人生会議 ACP人生会議・厚生労働省・神戸大学

地域包括ケアシステム 厚生労働省HP

 

『痛い在宅医』 長尾和宏 著 ブックマン社

『痛くない死に方』 長尾和宏 著 ブックマン社

ドキュメンタリー映画『けったいな町医者』

死には本来、苦しみはない。特養ホーム常勤医が見た「平穏死」の穏やかな死に方 tayorini 2020/3/30

 

文/チアフルライター やまさん

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