沿線お役立ちコラム

私達の命と健康を守る東水環境センターを探検【再生エネルギープロジェクト編】@魚崎

地球温暖化問題って何? 循環型再生可能エネルギーで持続可能な社会づくり

チアフルライターやまさんです。

ここからは、東灘処理場で実施されてきた国内初の試みである循環型の再生可能エネルギープロジェクトについてお伝えします。

 

近年、世界中で豪雨、山火事などの大規模な自然災害が急増しています。これは温室効果ガスによる地球の温暖化が原因だとされています。地球の温暖化が進むと、世界中の経済状況が悪化し、未知の感染症や紛争が頻発するようになるとも言われています。

 

温室効果ガスとは太陽からの熱を地球に封じ込めて地表を暖める気体のことで、その代表的なものがCO2(二酸化炭素)です。CO2の排出量はイギリスで起こった産業革命以来、私達の経済・産業活動により都市部で急激に増え続けてきましたが、ここ30年間でそのスピードがさらに加速しているそうです。地球の気温上昇が問題視され始めたのは、1985年にオーストリアで開かれた世界会議が最初です。その後温暖化についての調査が進められるとともに、1997年に地球温暖化防止京都会議(COP3)に世界各国から多くの関係者が参加し、先進国各国がCO2、メタン、亜鉛化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄の6種類の温室効果ガス排出削減の目標数値を定めた「京都議定書」が採択されました。2016年にはこれを更に推し進めた「パリ協定」が発効され、日本では中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められました。

 

2020年、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。カーボンニュートラルの達成のためには、温室効果ガスの排出量の削減、並びに吸収作用の保全及び強化をする必要があります。(出典:脱酸素ポータル

ゴミは宝の山! 地球を守る実験場として4つのエネルギー再生プロジェクトを実施

下水道からやってくる水・熱・汚泥などは「資源の宝庫」と言われています。東灘処理場では下水から再生エネルギーを取り出し、エネルギーの循環システム構築に向けて様々な取り組みを行ってきました。これまでに実施された取り組みは「自動車燃料化プロジェクト」「都市ガス導管注入プロジェクト」「KOBEグリーン・スイーツプロジェクト」「KOBEハーベスト(大収穫)プロジェクト」の4つです。ひとつひとつ見ていきましょう。

 

【下水の浄化とまちの衛生管理編】で汚水の処理工程について見てきました。その①の最初沈殿池で分離された汚泥は、バイオマスとして利用するため、上の卵のような形をした消化タンクへと運ばれます。消化タンクでは自動車や処理場で使用する燃料を作るためのバイオガスを生成しています。このタンクは地上約30メートル、8階建てのマンションの高さがあり、エレベーターで屋上まで行くことができます。やまさんは見学日と別の日に特別コースとして職員の方に屋上まで案内していただきました。

 

※バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源のことで、バイオマスエネルギーを利用することにより、温室効果ガスの排出量を減らし、再生可能エネルギーの産出量を増やすことができます。

屋上の出入口付近に中国語で消化タンクの説明書きが掲示してありました。東灘処理場へは国内外から年間約1,000名もの見学者が訪れるそうです。

神戸市は上下水道を運営する高度な技術・ノウハウを持っていることから、これまでJICAの国際技術協力事業を行ってきました。2012年からは水・環境ソリューションハブ(WES Hab)の登録団体としてベトナムのキエンザン省、ロンアン省での上下水道の事業化に向けた取り組みを支援しています。

 

※水・環境ソリューションハブとは、国土交通省が国内でも特に優れた下水道事業を運営している地方公共団体をAlliance Advanced Agency(AAA)として登録し、その団体が他国に対し下水道をはじめとした水・環境インフラの技術支援を行うためのネットワークを指します。現在、神戸市を含む11団体がAAAとして登録されています。

消化タンクの屋上に設けられた撹拌機の巨大モーター。この下に長いシャフトとプロペラが繋がっており、タンク内の温度を40℃に保ちながら汚泥を1ヶ月ほどかき混ぜ続けます。こうすることで汚泥の中のメタン菌が活性化しメタンガスが発生します。メタン菌は空気を好む微生物とは逆に空気を嫌います。東灘処理場では、このガスを取り出し「こうべバイオガス」として再生利用しています。メタンガスは地球の温暖化を促進してしまう温室効果ガスのひとつなのですが、これを逆にエネルギーとして利用するわけです。

屋上の覗き窓からタンク内部を見せてもらいました。汚泥が泡立ち、メタンガスが発生しているところです。

タンクの屋上からは東灘処理場が一望できます。この処理場は甲子園球場3個分の面積があるそうです。

銀色の煙突が4本立っている施設はバイオガス精製設備。消化タンクで発生した消化ガスを9気圧に昇圧し高圧水と接触させ、ガス中の不純物を取り除き、メタン98%にまで精製します。

バイオガス精製設備の吸収塔でガスが精製されていく様子。この後天然ガス自動車の燃料とする場合は、ガスに匂い付けをして昇圧し「こうべバイオガス」としてこうべバイオガスステーションへ送られます。

クリーンな燃料を安価に提供「自動車燃料化プロジェクト」

過去には神戸市バスの車両がこうべバイオガスを使用していたこともあります。 出典:神戸市建設局

 

こうべバイオガスステーションでは天然ガス自動車の燃料としてこうべバイオガスを安価で販売しています。バイオガスの実用化に成功したのは国内でここ東灘処理場が初めてだそうです。現在は佐川急便の天然ガストラックなどがこうべバイオガスを使用しており、乗用車なら1回の給ガスで約200km走れるそうです。こうべバイオガスは動植物由来の有機性資源であるバイオマスを原料としたバイオマスエネルギーであるため、地球上の二酸化炭素を増加させません。ですので燃料としてこうべバイオガスを利用した場合、二酸化炭素排出量はゼロとなります。

写真:天然ガスで動く神戸市のゴミ回収車。

 

化石燃料であるガソリンは大量の二酸化炭素を排出します。こうべバイオガスを利用すれば、地球上の温室効果ガスの削減に多大な貢献をすることができます。

近隣へガスを供給「都市ガス導管注入プロジェクト」

これはこうべバイオガスの都市ガス化設備です。こうべバイオガスをこの設備でさらに精製し、都市ガスと同等の水準にしてから大阪ガスの導管に送り込みます。東灘処理場で生成されたガスは2010年から2021年までの11年間、神戸市の社会実験として処理場の近隣約3,000世帯へ供給されました。こうべバイオガスはこの他、処理場内施設でも利用されています。

産業廃棄物からエネルギーを生み出す「KOBEグリーン・スイーツプロジェクト」

写真:この設備で木材・食品の地域バイオマスを前処理し下水汚泥と混合、その後消化槽でバイオガスを発生させ、新型バイオガス精製設備でガスを精製します。

 

東灘処理場では2012年から2021年まで、神鋼環境ソリューション、大阪ガスと共同で「KOBEグリーン・スイーツプロジェクト」を実施しました。これは下水道に好適な木質系等(グリーン)・食品系(スイーツ)の地域バイオマスを東灘処理場に受入れ、下水汚泥と混合することにより、バイオガス発生量を増加させ、同処理場を「地産地消型の再生可能エネルギー供給拠点」とすることを目指すものです。

 

この実証事業では、木質系バイオマスとして六甲山系の間伐材を、食品系バイオマスとして東灘区に拠点を置く白鶴、神戸プリン、ロック・フィールドなどの食品工場から出た食品廃棄物を受け入れ、消化ガスの原料として利用しました。工場から出た食品は廃棄する際、産業廃棄物として多大な廃棄コストが掛かります。また、市の焼却場で大量の廃棄物を焼却処分するのにもCO2とコストが発生します。有機性の廃棄物をバイオマスエネルギーとして利用できれば、その両方の削減になるだけでなく、廃棄物から新たなエネルギーを生産することができ、食品ロスを減らすことにもなります。

下水の汚泥から希少なリンを回収 「KOBEハーベスト(大収穫)プロジェクト」

写真:「こうべ再生リン」を使用した有機肥料。グリーンの袋はこうべ再生リンが20%配合された園芸や野菜用の「こうべハーベスト10-6-6-2」。ピンクの袋はこうべ再生リンが15%配合されたお米用の「こうべハーベスト水稲一発型」。「こうべハーベスト」は神戸市内の農家の間で、ブランド野菜「こうべ旬菜」や学校給食用のお米「きぬむすめ」に、また市内の日本酒醸造用の酒米やワイナリーのぶどう栽培にも使用されています。

写真:リンの回収施設

 

肥料の三大要素であるリンは農産物の育成に不可欠な物質ですが、日本ではそのほとんどを輸入に依存しています。一方で、「下水道は都会の中のリン鉱山」と言われており、全国の下水処理場から出る汚泥には約5.1万トンのリン成分が含まれています。これは、国内の農業に使われるリン成分の約2割に当たります。東灘処理場では「KOBEハーベスト(大収穫)プロジェクト」として2011年度から、水ing(スイング)株式会社とリン資源を回収する研究に取り組み、リン回収の手法を確立しました。現在、東灘処理場で回収した「こうべ再生リン」を水ingエンジニアリングが神戸市から購入し、園芸用肥料や水稲用肥料を製造、JA兵庫六甲の協力により市内の農家へ販売しています。

 

この「KOBEハーベストプロジェクト」の取り組みにより、神戸市・水ing・JA兵庫六甲は2020年に第13回国土交通大臣賞(循環のみち下水道賞/イノベーション部門)を共同受賞しました。

神戸 下水道の歩み館に置いてあるガチャで100g入りのこうべ再生リンと合格・必勝祈願缶バッジを100円で購入することができます。購入した再生リンは単体でも安全な有機肥料として家庭菜園や鉢植えに利用することができます。缶バッジには滑り止めのついた耐スリップマンホール蓋がデザインされています。

これがKOBE耐スリップマンホール蓋。坂の多い神戸の街を歩くのに滑りにくい加工がされています。この蓋だけでなく、マンホールの蓋に様々な模様がついているのは、滑りにくくするためだそう。試験を控えている方はこのマンホールの写真を撮ったり缶バッジを購入して験を担いでみては。

 

以上、4つのプロジェクトを紹介してきましたが、今まで不要なゴミだと思ってきたものが資源として活かせることがわかりました。2021年のデータによると、日本の二酸化炭素排出量は世界で第5位だそうで、各国からもさらなるCO2削減の努力を求められているそうです。地域の官民が協力しあい、東灘処理場が持つこれらの技術力を今後さらに活用して資源の無駄を減らし、温室効果ガスを減らしていく必要があります。未来を担う子どもたちがきれいな水を飲み、清潔な環境で健康に暮らしていけるよう、私達大人ができることを考えなくてはなりませんね。

全国でマンホーラーが増加中 マンホールサミットを東水環境センターで開催

街なかを歩いていて、カラフルなデザインのマンホール蓋を見かけることはありませんか?これはデザインマンホールといい、全国でご当地の特色を活かした楽しいデザインのマンホール蓋が続々と登場しています。そして今、このマンホール蓋に魅了されたマンホーラーと呼ばれる愛好家が全国で増加中なのです。全国の自治体ではこのデザインマンホールをカードの形にして下水道施設などで配布しており、このマンホールカードのコレクターも増えています。

東水環境センターで開催されたマンホールサミットの様子 出典:下水道広報プラットホームHP

 

2015年11月28日、「下水道の未来を体感する!」をテーマに第3回マンホールサミットが東水環境センターで開催されました。マンホールサミットとは、下水道の重要性を人々に伝えるため有識者や下水道関係者により発足した「下水道広報プラットホーム(GKP)」主催によるマンホール蓋愛好家たちが集うイベントです。当日は下水道施設関係者、マンホールの有識者、一般参加者など総勢300名が来場し、テレビ・新聞・ラジオ・ウェブといった多数のメディアからもサミットの様子が紹介されました。会場ではパネリストによる講演や、施設の見学、マンホール鉄板焼などが行われ、マンホーラーや蓋女と呼ばれるマンホール愛好家たちがマンホールの世界を堪能しました。

大切な資源である水をきれいに保つため、私達にできること

東灘処理場の見学会で、職員の方から下水管やきれいな川や海を守るために私達住民にもできることを教えてもらいました。

①排水口に天ぷら油や熱いお湯を流さない。鍋やフライパンの汚れを紙や布で拭き取ってから洗う。

②水に溶けない紙などをトイレに流さない。

③浴室の排水口に髪をできるだけ流さない。

④ベランダの排水口や道路の側溝、雨水桝に枯れ葉、煙草、ガムなどのゴミを捨てない。

どれも水に溶けないものや水に溶けると有害な物質です。特に油は徐々に固まって配管の内側にこびりつき、配管が詰まる元になります。神戸市では、水辺の清掃ボランティア団体を支援する「神戸市市民の水辺連絡会」が結成されています。会に登録されている団体に参加してみるのもいいかもしれません。

 

ひとりひとりがちょっとだけ気をつけることで、私達、そして子どもたちが安心して暮らしていくまちづくりができることを教えてもらい、とても大切な学びを得た見学会でした。

 

最後に、おうちのトイレや水道の配管が詰まったり水漏れしたときは、真っ先にお住まいの各自治体に連絡してくださいね。神戸市にお住まいの方なら、市が開設している水道修繕受付センターへ連絡を入れてください。適正な価格できちんと修理してもらえます。

 

東灘処理場

神戸 下水道の歩み館マンホールカードコース見学(要予約)

場所:神戸市建設局東水環境センター

時間:9:30〜10:30、13:30〜14:30
一般団体見学がある日を除く

電話:078-451-0456(平日9:00〜17:00)

※見学には1時間半〜2時間のフルコース、小学校社会科見学コースもあります。詳しくは電話にて。

アクセス:

阪神「魚崎」駅または「青木」駅から徒歩約17分
JR「摂津本山」駅から市営バス34系統「魚崎中学校前」下車徒歩約5分
JR「住吉」駅から市営バス35系統「魚崎南町2丁目」下車徒歩約5分

 

  

【水辺の遊歩道・うおざき】

3月~11月:7時~18時


12月~2月:7時~17時(年末年始を除く)


並木の手入れや整備等により閉鎖する場合があります。

 

【参考】

東灘処理場 水処理とバイオガス&リン

マンホールカード用動画前編

マンホールカード用動画後編

微生物図鑑 東京都下水道局HP

脱酸素ポータル カーボンニュートラルとは 環境省HP

地下が見える マンホールの蓋の読解法 NIKKEI STYLE

遺伝子が明かす、最強生物クマムシの強さと進化の道筋 Science Portal(2017/9/14)

神戸市の下水道管理用光ファイバー

循環型社会の実現に向けて 佐川急便HP

KOBEグリーン・スイーツプロジェクト KOBELCO HP

神戸市東灘処理場再生可能エネルギー生産・革新的技術実証事業 資料

「こうべハーベスト」の利用促進について

日本下水道新聞

今さら聞けない「パリ協定」 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~ 経済産業省資源エネルギー庁

地球規模で、神戸の下水道技術とノウハウを活かしていく。神戸市建設局下水道河川部長 畑惠介さん BE KOBE

関西で初のマンホールサミット〜神戸市東水環境センターに約300人が来場〜

 

文/チアフルライター やまさん

やまさんの過去の記事はこちら

 

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