沿線お役立ちコラム

私達の命と健康を守る東水環境センターを探検【災害からまちを守る下水道編】@魚崎

下水処理機能が完全に止まった阪神淡路大震災

写真:阪神淡路大震災で破壊された東灘処理場の杭。2018年に「阪神・淡路大震災による被災構造物群」として、土木遺産に指定されました。神戸下水道の歩み館のエントランスに展示されています。

 

チアフルライターやまさんです。

ここからは、まちを災害や水害から守り、住民が安心して暮らすためのプロジェクトや日々の業務、水辺の環境改善の取り組みについてお伝えします。

 

1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災。阪神間でも神戸市は特に被害が大きく、電気・ガス・水道など全てのインフラが麻痺状態になりました。当時市内の5ヶ所にあった下水処理場もまた多大な被害を蒙り、中でも東灘処理場は最も損傷が激しく、下水処理機能が完全にストップしてしまいました。

写真:最初沈澱池流入水路の破壊 神戸下水道の歩み館展示写真より

 

地域には水道やトイレが使えなくなったところも多かったのですが、逆に下水管が生きていたところも多く、東灘処理場には汚水がどんどん流れ込んできました。しかしこの下水をそのまま放流してしまうと海が汚染されてしまいます。震災の翌日、東灘処理場では苦肉の策として魚崎運河を締め切って仮設の処理場にすることを決定しました。そしてできた仮沈殿池に凝固剤を投入し汚物を底に沈殿させ、沈んだ汚物を汲み上げて六甲アイランドの焼却場で焼却しました。このようにして処理場が復旧するまでの100日間をなんとかもちこたえたのです。こうした必死の復旧作業を行ったのは、自身もまた被災し、避難所生活を送っていた職員の方たちでした。

写真:仮沈殿池 緊急措置として運河を締め切って2月7日から5月1日まで簡易沈殿処理を実施。 神戸下水道の歩み館展示写真より

写真:仮沈殿池内に設置された汚泥浚渫船 神戸下水道の歩み館展示写真より

災害に強い下水道ネットワークシステムの構築

出典:国土交通省ウェブサイト

 

神戸市では機能停止した東灘処理場の経験を教訓として、震災の翌年である1996年から15年をかけて「下水道ネットワーク」を完成させました。この日本初のシステムにより、市内5つの処理場が延長約33.3kmに及ぶ大深度・大口径のシールド幹線で結ばれました。この幹線により、1つの処理場が機能停止した場合でも、他の処理場へ汚水を送り込んで処理することが可能となりました。これは平常時でも相互の処理場を有効活用することができる画期的なものです。この取り組みにより、神戸市は2011年度第4回循環のみち下水道賞サスティナブル活動部門で国土交通大臣賞を受賞しました。このシールド幹線は一般住民の目からは全く見えないものですが、神戸市の災害から市民を守ろうとする強い意志と覚悟を感じました。

三宮のウォーターフロントに鎮座し街を浸水から守る3つの守護神

写真:生田川の河口付近にある巨大な小野浜ポンプ場。ギリシャ神話に出てくる神殿のようなデザインですね。

 

2004年10月に発生した台風23号により、地盤の低い三宮南地区で浸水被害が多発しました。これをきっかけとして、神戸市では10年に1度発生する大雨による浸水が発生しないように雨水幹線やポンプ場が整備されました。

図:地盤が低く浸水しやすい三宮南地区に設置された3箇所のポンプ場。京橋ポンプ場は2011年に、中突堤ポンプ場と小野浜ポンプ場は2015年に完成しました。 出典:神戸市HP 三宮南地区浸水対策事業

 

 

小野浜ポンプ場の内部の様子です。この地下神殿にゲリラ豪雨で発生した雨水を一時的に溜め込み、強力なポンプで海へと排出します。 「下水道×アート×SDGsプロジェクト」#3 地下神殿に潜入

小野浜ポンプ場に近いHATゆめ公園に保存されている小野浜町煉瓦下水道と神戸臨港鉄道架道橋。明治40(1907)年に竣工した神戸臨港鉄道神戸港駅構内に造られたもので、この上を神戸港に出入りする貨物列車や旅客列車が走っていました。神戸臨港鉄道は旧国鉄六甲道駅と灘駅の間にあった東灘駅から摩耶埠頭、神戸港、湊川へと続き、港と鉄道を繋ぐ貨物線として重要な役割を果たしましたが、2003年に全線廃止となり役目を終えました。明治・大正期の下水道施設が見学できる貴重な土木遺産です。

こちらは東灘処理場に保存されている三宮の水害対策工事に使用された泥土圧式シールドマシン。外形が4.2mもあります。2012年~2015年にかけて、このマシンを使用してメリケンパークにある中突堤ポンプ場からポートタワーの横を通り、BE KOBEのモニュメント下までの間約550mの間に雨水排出用のトンネルを掘削しました。この「中突堤ポンプ場放流渠」と呼ばれるトンネルは内径3.5mもあり、神戸市最大のシールドトンネルとなっています。この大口径雨水管渠完成により、三宮の水害対策がより強化されました。

365日24時間住民の暮らしを見守る東灘処理場

ここは東灘処理場(東水環境センター)の中央監視室。汚水の流入量、ポンプ、各処理施設の状況把握など、刻々と変化する処理場内の様子を24時間モニタリングしています。やまさんが取材に伺った日は午前中に大雨が降ったため、中央監視室の中は緊迫した雰囲気だったそうです。

図:緑が分流式下水道の地域、ピンクは古くから残されている合流式下水道の地域。オレンジは雨水滞水池。分流式ですと汚水と雨水が別々の管で集められ、雨水は雨水管を通って直接海へと排水されます。そうして汚水のみが処理場へと流れてくるので、処理する汚水の量は少なくて済みます。ですが、ピンクの地域を分流式に変更するには高額の費用がかかり、配管工事にも近隣住民への配慮が必要なため、現在のところ方式の変更は難しいそうです。 パンフレット「東灘処理場」より

 

【合流式下水道の問題点】

下水を集める方式には、汚水と雨水を分けて下水処理場に流す「分流式下水道」と汚水と雨水を同じ管で流し、下水処理場へ送って処理する「合流式下水道」があります。

 

神戸市内のほとんどの下水管は分流式ですが、上図のように芦屋川~石屋川間のピンクの区域は現在も合流式の下水管が通っています。合流式の場合、生活排水と雨水が同じ管を通って東灘処理場まで流れてくるため、大雨が降ると水量が一気に上昇します。この大量の排水は海へ直接流すわけにはいきません。かといって一気に処理場内に送り込むと水の浄化がうまくできません。処理場内では微生物が食べることのできる汚れの量や、送水できるパイプの太さの制限などから、汚水の量を必ず一定量に調整してから処理をする必要があるのです。そのため、東灘処理場の北側に設けられた滞水池へ汚水を一時プールしておき、一定量ずつ処理場へと送り込みます。合流式の下水管だと、このように急に大雨が降るたびに下水処理場に大きな負荷がかかるというマイナス点があるのです。

 

「下水道×アート×SDGsプロジェクト」#2 長老Pの風格

東水環境センターに隣接する魚崎ポンプ場で働き続けている「雨水3号」の紹介動画です。魚崎ポンプ場は1962年に供用を開始し既に60年以上稼働しています。この雨水3号は25mプール1杯分の水をわずか2分半で排出する能力を持っているそう。雨水ポンプの老朽化、近年の地球温暖化による記録的大雨や多発するゲリラ豪雨などに対処するため、魚崎ポンプ場では2015年からの改修工事が行われています。ですが、完成までには時間がかかるため、これからもしばらくは雨水3号が活躍し続けるそうです。本当にお疲れ様です。

 

2018年9月に近畿地方を襲った台風21号は、1993年の台風13号以来の「非常に強い勢力」で上陸、記録的暴風と第二室戸台風を上回る大規模な高潮をもたらしました。台風の低気圧により潮位がこれまでの想定以上に上昇、水位が魚崎運河の堤防を越えて浸水しました。この時、東灘区にある魚崎ポンプ場と本庄ポンプ場が活躍し、浸水はしたものの海岸沿いの道路に溢れた水は約半日で海へと排水され、比較的少ない被害にとどまりました。

 

【老朽化した下水道管の補修】

 

 

現在神戸市の下水管は建設されてから既に50年以上が経過しており、その改修工事が進められています。下水管の寿命は約50年と言われており、神戸市全体でその老朽化が進んでいるのですが、配管をまるごと交換するに莫大な費用がかかるため、動画のような形で補修の必要性が高い箇所から順次作業を進めているそうです。 「下水道×アート×SDGsプロジェクト」#8 地下の工事見せちゃいます~下水道管のアンチエイジング~

下水道管を利用して光ファイバーケーブルを敷設 

レインマップこうべ250の画像

 

神戸市では、前述の「下水道ネットワーク」幹線を中心に耐震性の高い汚水管渠内に光ファイバーケーブルを敷設し、市内の処理場・ポンプ場を結ぶことで、災害に強い独自の情報制御システムを構築しています。これにより基幹処理場から離れたポンプ場を遠隔で運転管理できるようになり、近年頻発しているゲリラ豪雨などに迅速な対応をすることが可能となりました。また、神戸市降雨情報システム「レインマップこうべ250」を用いて、市街地の浸水を防ぐため降雨状況に合わせたポンプ場の運転を行っています。「レインマップこうべ250」は携帯・スマートホン・PCからも自由に閲覧できます。

神戸市河川モニタリングカメラシステムのHPでは、神戸市内を流れる22河川のうち30ヵ所にネットワークカメラを設置し、川の流れる様子をリアルタイムで配信しています。リンクからレインマップこうべ250・気象警報・注意報、台風・地震・津波情報も確認できます。

魚崎駅のそばを流れる住吉川の五百崎橋付近に設置されたモニタリングカメラの映像です。家や職場のパソコンやスマートホンでモニタリングカメラの映像を確認すれば、屋外がどの程度危険か、避難したほうが良いかの判断材料になります。

 

このようにして下水処理場は住民に健康で快適な生活を保証してくれているだけでなく、災害や水害からも守ってくれていることがわかりました。職員の皆さんには本当に感謝です。

地域の憩いの場「水辺の遊歩道・うおざき」

写真提供:東水環境センター

 

東灘処理場には、阪神淡路大震災で液状化現象により崩れた魚崎運河を修復してできた「水辺の遊歩道・うおざき」があります。遊歩道にはアーモンド並木があり、3月下旬にはピンクの花が満開となります。アーモンドの木は震災復興のシンボルでもあります。

見学に訪れた日は、ちょうどアーモンドがたわわに実をつけていました。神戸下水道の歩み館ではこの遊歩道で採れたアーモンドの種を希望者に配布しており、プランターに植えて育てることもできます。

アーモンドの花の蜜を吸いにやってきたメジロ。東灘処理場や魚崎運河ではイソヒヨドリ、ジョウビタキ、ツグミ、シジュウカラ、カワセミ、コサギ、カルガモ、オオバンなど様々な野鳥を観察することができます。 写真提供:東水環境センター

 

水辺の遊歩道・うおざき以外にも神戸市では、まちなかのせせらぎ、街路樹の散水、人工島であるポートアイランドや六甲アイランドのトイレ用水にも下水処理水が使われおり、普段はまちの潤いや地域の交流活動の場として、非常時には防災利用できるようになっています。

 

次回は、「地球温暖化を食い止める持続可能な再生エネルギープロジェクト」についてお伝えします。

 

文/チアフルライター やまさん

やまさんの過去の記事はこちら

 

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