沿線お役立ちコラム

さよなら、ありがとう赤胴車【後編】

赤胴車の後継車8000系と9300系

さよなら、ありがとう赤胴車【前編】に戻る

 

写真:武庫川駅本線ホームに停車中の8000系

 

1984(昭和59)年に登場した8000系は阪神初の6両固定編成として設計され、車形の呼称も「~形」から「~系」へと変わりました。それまでの車形と違って他車形と併結しないため、8000系は既存の急行車とは一線を画すデザイン・性能となっています。1次車は3801形に似ていますが、2次車からは前面がブラックフェイスで初のスカート(※6)付き、走行システムには界磁チョッパ制御(※7)が採用され、省エネ効果の高い回生ブレーキ(※8)が装備されました。

 

8000系は赤胴車カラーを最後に採用した車両でしたが、2002(平成14)年からのリニューアル工事に伴い9300系と同じ上半分がプレストオレンジ、下半分がシルキーベージュの新塗装に塗り替えられました。

 

※6 スカート:鉄道車両の前面下部に装着された排障装置。線路上の障害物をはね避け、車体下に巻き込んで運転に支障をきたすことがないようにするもの。

 

※7 界磁チョッパ制御:複巻電動機の分巻界磁電流をチョッパ方式で制御することにより回生ブレーキを使用可能とする速度制御方式。(参考:杉山淳一の「週刊鉄道経済」

 

※8 回生ブレーキ:通常は電源入力を変換して駆動回転力として出力しているモーターに対して、逆に軸回転を入力して発電機として作動させ、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収または消費することで制動として利用する電気ブレーキの一手法。(参考:回生ブレーキって、どんな仕組み?

写真:神戸三宮駅に停車中の9300系 やまさんはこれに乗って通勤しています。前面の両裾が斜めにカットされた独特なデザインになっています。

 

2001(平成13)年に登場した9300系は老朽化した赤胴車3000系の置き換え用として開発されました。カラーリングは8000系と同様プレストオレンジとシルキーベージュのツートンカラーになっており、赤胴車に換わる阪神の新しい急行用車両のイメージを打ち出しています。

軍需路線として生まれ、マンモス団地の足として再生した武庫川線

赤胴車が走っていた武庫川線は、阪神本線武庫川駅から武庫川団地前駅までを結ぶ全長わずか1.7kmの支線です。こうした短い支線は、その形状から「盲腸線」とも呼ばれています。

 

1943(昭和18)に誕生した武庫川線は軍需工場であった川西航空機(※8)の工場へ通勤客や資材を運ぶために建設されました。はじめに武庫川~洲先間が開業、翌年には武庫川大橋まで延伸し阪神国道線(※9)と接続。車幅の異なる国鉄東海道本線の貨物列車が工場のある洲先駅まで直接乗り入れることができるよう、武庫川大橋~洲先間はレールが3本ある三線軌条になっていました。

 

PHP研究所発行の『阪神電鉄のひみつ』には、国鉄の貨物車を牽引するSLと阪神の電車が隣同士を走る当時の珍しい写真が掲載されています。国鉄線との連絡線として使用された西宮~武庫大橋間は国鉄の管理下に置かれ、武庫川線は阪神の路線としては未開業扱いでした。

写真:赤胴車の車窓から見た武庫川線

 

戦時下に生まれた武庫川線は1945(昭和20)年6月の神戸大空襲で工場および洲先駅が被災、翌年1月には全線が営業休止に。戦後は川西航空機を接収したGHQの命により引き続き貨物輸送が続けられましたが、1958(昭和33)年に休止し、1970(昭和45)年に廃止されました。

 

一方で1948(昭和23)年に旅客営業が再開されますが、工場がなくなったため利用客が減少、一時は廃線も危ぶまれました。しかし工場跡が再開発され、1979(昭和54)年に関西でも有数の規模を誇る武庫川団地が完成すると、武庫川線は住民の足として息を吹き返します。1984(昭和59)年には洲先~武庫川団地前まで延伸されました。武庫川線での赤胴車の運行は2000年から開始され、ワンマンカーとして武庫川~武庫川団地を往復運転していましたが、2020年6月2日を最後にその役目を終えました。

 

※8 川西航空機:戦前の航空機製造会社。水陸両用機「九七式飛行艇」戦闘機「紫電」「紫電改」を製作。軍需企業だったため社屋・工場は米軍から重要な攻撃目標とされました。戦後は新明和工業と名を改め旅客機「YS-11」、救難飛行艇「US-1」「US-1A」「US-2」などを開発製作しています。

 

※9 阪神国道線:1927(昭和2)年~1975(昭和50)年まで運行していた阪神電鉄の路面電車。野田~東神戸までを結ぶ全長26kmの路線で、単一の軌道路線としては日本で最も長い路線でした。

武庫川線の新車両「タイガース号」「甲子園号」

赤胴車に代わって武庫川線を走るのは、5500系の通勤用普通車両(通称:ジェットカー)を改造した「タイガース号」と「甲子園号」です。

 

沿線に甲子園球場と鳴尾浜球場があることから、デザインテーマが「野球」になったそう。車体に描かれた「武庫川」のロゴには武庫川線の4つの駅を表す丸印があしらわれており、この新車両が武庫川線の専用車両であることがわかります。

 

車体のカラーリングも内装もこれまでの阪神車両とは一線を画す斬新なものとなっています。サンテレビさんが新車両を取材された詳しい動画があります。これを見れば野球ファンならずとも、きっと乗ってみたくなりますよ。

引退した赤胴車が武庫川団地のコミュニティ拠点に

今年3月16日付けのPR TIMESによると、阪神電鉄とUR都市機構が包括連携協定を結び、阪神沿線のUR団地を中心とした地域の活性化に取り組むことになりました。

 

その一環として、来春を目処に地域のコミュニティ拠点として武庫川団地内に引退した赤胴車の一両が設置され、新しいランドマークとして活躍することに。これまで阪神では沿線各地で「HANSHIN女性応援プロジェクト」として子育て支援イベントや女性向けセミナー等を開催してきましたが、UR団地でも今後は様々なイベントを行う予定だそうです。

阪神電車は続くよどこまでも

やまさんは今回の新型コロナ騒動で派遣切りに遭い、3月中旬からは新しい職場へ阪神電車で通勤しています。その時とても有り難かったのは阪神電車がまったくダイヤを変更することなく運行し続けてくれていることでした。阪神電鉄をはじめ、大変な時期にも人や物資を粛々と運び続けてくださる運輸関係の方々には本当に感謝です。

 

時代とともに様々なデザイン・仕様の電車が登場しては消えていきますが、「ぼくらの街の阪神電車」は今日も変わることなく阪神間を走り続けています。

 

さよなら、今までありがとう赤胴車。

【情報】

赤胴車記念グッズをネット限定発売します!

(阪神電鉄 ニュースリリース 2020/4/30)

(武庫川線)車両置換え時期の変更について

(阪神電鉄 ニュースリリース 2020/5/22)

鉄道甲子園オンラインショップ

武庫川線に5500系「タイガース号」と「甲子園号」 2020年5月末運行開始

(鉄道チャンネル)

【特集】阪神電鉄 新車両は“走る野球場”/さようなら赤胴車 サンテレビ

(YouTube)

阪神電鉄とUR都市機構が包括連携協定を締結 沿線のUR団地を中心とした地域活性化への取組みを開始 ~阪神電車の「赤胴車」を武庫川団地内に設置し、地域のコミュニティ拠点に~

さよなら 元阪神初代赤胴車 えちぜん鉄道2204号

(YouTube)

 

【参考】

阪神電気鉄道株式会社 HP

「阪神電鉄のひみつ」 PHP研究所 編

「大阪・京都・神戸 私鉄駅物語」 髙山禮蔵著 JTBパブリッシング

Wikipedia 阪神3011形電車、阪神3301形・3501形、阪神3801形・3901形、阪神7861・7961形電車、阪神7890・7990形電車、阪神7801・7901形電車

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:「東急8000系」誕生から50年 通勤電車の“いま”を築いた、道具に徹する潔さ

(ITmediaビジネス ONLiNE)

回生ブレーキって、どんな仕組み?【超初心者向け解説】

(GAZOO)

 

文/チアフルライター やまさん

→ やまさんの過去の記事はこちら

 

さよなら、ありがとう赤胴車【前編】に戻る