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パウル・クレー展--創造をめぐる星座 兵庫県立美術館で開催中

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色彩と線の魔術師 パウル・クレー展--兵庫県立美術館で開催中

皆さんこんにちは!美術館・博物館、星担当、エンカチライターの甲斐千代子です。
色彩と線の魔術師ともいわれる、スイスの画家、パウル・クレーの画業をたどる「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」が兵庫県立美術館で開催中です。

本展ではパウル・クレーの生涯を6つの章に分けて時系列で紹介しています。合わせて、同時期の芸術家の作品も展示し、対比することで、より深くパウル・クレーの作品を理解しようとする試みです。

「この世では、私を理解することなど決してできない。なぜなら私は、死者たちだけでなく、未だ生まれざる者たちとも一緒に住んでいるのだから」
このことばが示すように、謎めいた作品やタイトルが多く、同時代の画家とは一線を画すパウル・クレー。

時代ともに変化するその作風に心躍らせながら、いざ、パウル・クレーの世界へ!

モノクロの中の光 色彩への目覚め

1898年、19歳を目前にクレーはふるさとスイス・ベルンを離れ、画家を志し、ドイツのミュンヘンに移住します。
デビュー作品は、モノクロの銅版画。
クレーの初期の作品は、同時代の芸術運動よりも、100年以上前の作品を参考にしていたそうです。モノクロの世界における光の表現に注目です。

パウル・クレー≪チュニスの赤い家と黄色い家≫1914年 パウル・クレー・センター

転機が訪れたのが、1911年。クレーは、ミュンヘンで活動していた芸術家のグループ「青騎士」とかかわりを持つようになります。さらに1912年のパリ訪問、そして、1914年の北アフリカ・チュニジア訪問を経て、作風に大きな変化が。明るい色彩を用いるようになるのです。

また、キュビスムを意識した作品も。同時代のピカソの作品も展示されています。是非見比べてみてください。

第一次世界大戦とシュルレアリスム

パウル・クレー≪破壊された村≫1920 東京国立近代美術館

1914年、第一次世界大戦が勃発。クレーは徴兵を受けるものの、高等教育を受けた「1年志願兵」であることと、芸術家であることなどが考慮されたためか、前線に送られることはありませんでした。従軍中も制作活動をつづけたクレーでしたが、明らかに戦争を彷彿とさせる作品を描いたのは、終戦後のこと。その胸中はいかなるものだったのでしょうか。

パウル・クレー≪小道具の静物≫1924年 パウル・クレー・センター

1920年代前半フランス・パリで起こった芸術運動「シュルレアリスム」。日本語では超現実主義と訳されます。フロイトの提唱した精神分析論を支柱として、人間の無意識に芸術の根源を見出そうとする試みで、理性や常識を超えた夢のような世界観を表現する芸術の潮流です。
クレーが直接このシュルレアリスムに関わることはありませんでしたが、シュルレアリストたちはクレーの作品を評価しました。詩人である彼らは、自分たちの表現に対応する芸術家を求めており、そこに当てはまったのがクレーの「不思議な表現」だったのです。

≪小道具の静物≫という作品。舞台の道具部屋でしょうか。中央には両腕が取れたマネキンの他、様々な道具がゴチャゴチャと描かれていますが… それらが自らぼやっとした光を放っています。舞台が終わった後、倉庫の中で道具たちが命を帯び、動き出そうとしているのかもしれません。

バウハウス そして晩年の活動へ

第一次世界大戦の終戦後、ドイツのヴァイマルに設立されたバウハウス。建築を中心とする学校です。建築のためには、壁画、家具、絨毯などが必要だとして、ヨーロッパ各地から様々なジャンルの芸術家が指導者として集められました。パウル・クレーもその中の一人として招請され、ここで彼は、多様な刺激を受けることになります。

バウハウスでは、当初、東洋美術への関心が高まります。世界大戦という悲劇をおこしたヨーロッパに希望は見いだせない。新しい人類の道は東洋にあるのではないかという壮大な発想のもと、様々な試みが行われました。クレーもそれに呼応するかのように≪中国風の絵≫(画像右)を描いています。僧侶のような人物、その周りには幾何学的な不思議な絵がいくつも描かれています。僧侶の頭の中にある抽象的な思考、クレーの知らない理想的な世界を描いているのではないかと思わせる作品です。

バウハウスで充実した教員生活、芸術活動をしていたクレーですが、1933年、ドイツでヒトラーが台頭し、退廃した「ユダヤ人」とみなされたクレーは、追われるように母国スイスに逃れます。

1935年、クレーは体に自由が利かなくなっていく病を発症します。そして1940年、クレーは亡くなります。その際アトリエで見つかった作品の一つが会場最後に展示されています。≪無題(最後の静物画)≫鮮かな色、力強いタッチの大きな作品から、クレーが亡くなる直前まで芸術への強い思いを持ち続け、創作活動に励んでいたことを感じることができます。

本展では、同時代の画家の作品が一緒に展示されていることが特徴の一つ。パウル・クレーと、20世紀美術に燦然と輝くスターたちの競演、是非ご堪能ください。

「パウル・クレー展--創造をめぐる星座」

音声ガイドでは、声優の伊東健人さんがナビゲータを務めています。作品鑑賞のポイントと作品の魅力を紹介してくれます。さらに、今回はカタログに注目!読み応えたっぷり!パウル・クレーの深いところまで楽しむことができます。
オリジナルグッズも充実していますので、展覧会の思い出とともにお持ち帰りください。

「パウル・クレー展--創造をめぐる星座」
会期:2025年5月25日まで
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(5月5日(月・祝)は開館、7日(水)は休館)
会場:兵庫県立美術館

パウル・クレー展——創造をめぐる星座

エンカチライター

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