博物館でバスタイム
みなさんこんにちは!美術館・博物館・お風呂担当、エンカチライターの甲斐千代子です。
古代ローマの公共浴場「テルマエ」。ヤマザキマリ作の漫画『テルマエ・ロマエ』で、その存在を知った方も多いかと思います。その「テルマエ」にスポットをあて古代ローマの人々の生活を紹介する「テルマエ展」が神戸市立博物館で開催中です。
絵画・彫刻・考古遺物といった100件以上の作品と、映像や模型をとおして提示されるのは、古代ローマ人の「テルマエ愛」、さらには、日本の入浴文化についても取り上げ、その共通点にも迫ります。
では、頭にタオル、石鹸、シャンプー&リンスを入れた桶を手に!(冗談です、実際にしないでくださいね)いざ、会場の神戸市立博物館へ!
会場内あちらこちらに登場する、「テルマエ・ロマエ」の主人公ルシウスのコトバにも注目ですぞ。
美術の授業でおなじみの二人はテルマエのキーパーソン
「テルマエ」の語源はギリシャ語の「テルモス(熱い)」「テルモン(熱)」で、古代ギリシャでは、温泉など熱いお湯をさすことばとして使われていたそうです。
それが、紀元前1世紀の末からローマ皇帝などによって建設される大規模な公共浴場をさすようになります。紀元前1世紀末と言えばローマで帝政が始まった時代。つまり、ローマ帝国とテルマエの始まりはほぼ同じ時期だったんです。
最初のテルマエを作った人は、初代皇帝アウグストゥスの娘婿アグリッパ。そして、最も有名なテルマエを作ったのは皇帝カラカラ。序章ではこの二人の像が展示されています。
ん?この像、2人の顔、どこかで見たことがある… と思った方!もしかして学生時代、美術部でしたか?さらにヒントを出すと・・。美術準備室に於いてある石膏像といえば?… そう。石膏デッサンの対象としてよく用いられているのが、このアグリッパとカラカラなんです。
美術教育でなじみのお顔の2人が、実はテルマエに関わる有名人だったとは…
パンとサーカス
第1章は、「古代ローマ都市のくらし」
ローマ帝政の初期は、ごく一部の『特権階級』と、商人や職人、日雇い労働者、奴隷といった『大衆』との格差はかつてないほど広がっていました。支配層である皇帝たちは、その大衆の不満を解消すべく食料と娯楽の提供を行います。のちに「パンとサーカス」と皮肉られる施策の実施でした。サーカスというのは、現代とは意味が異なっていて、当時の人々が熱狂した娯楽イベントのこと。グラディエーター(剣闘士)や演劇、そしてここに「テルマエ」も含まれるとのこと。
皇帝からパンが供与され食べるには困らない大衆は、仕事の後にはテルマエでのんびり、特別な日にはイベントを満喫… こんな生活を送っていました。
この章では、通貨や、陶器、演劇で使われた面などが展示され、大衆の生活を垣間見ることができます。
心身の健康を保つ場としてのテルマエ
第2章は「古代ローマの浴場」
テルマエでの入浴方法については、会場内の動画やキャプション、さらに図録には解説が掲載されてるので詳細を知りたい方は是非そちらをご覧いただくとして…
この章では入浴に関わる様々な作品が展示されています。髭剃りのためのカミソリはその大きさにびっくり!入浴道具は、はて、何に使うのだろうと思いましたが、キャプションを見て納得。是非会場でチェックしてみてください。
温泉水が体にいいことは古くから知られていて、入浴は医療や健康とも直結していました。テルマエには、運動場が付随し、部屋や広間では食事を楽しんだり、演劇や朗読会が催されたりと、文化サロンのような側面もありました。心身の健康を保つうえでテルマエは重要な存在だったのでしょう。
この章の後半では、テルマエを支えたインフラについても紹介されています。水道のバルブ… 今でも使えそうな印象で、高い技術力が伝わってきます。
テルマエと美術
第3章は「テルマエと美術」
テルマエには数多くの大理石彫刻や絵画が飾られていました。床にはイルカや魚などをモチーフとしたモザイクが敷き詰められ、天井には漆喰の装飾が施されているものも見つかっています。大衆がくつろぎながら美術作品を楽しめる場でもありました。場所柄… 裸像が多かったそうです笑
とここまでが、古代ローマのテルマエについてのお話。
ではなぜ、なぜローマ帝国でテルマエ建設が可能だったのかまとめてみます。本展を監修した東京大学大学院芳賀京子教授によると、
① コンクリートやドーム天井を使用した大規模建築が可能な技術力と、時には100キロ以上離れたところから水を引くことができるローマ水道(インフラ)により支えられた、豊富な水資源があった
② テルマエ運営のための莫大な資金は、皇帝の資産から捻出されていた。
③ 大衆を喜ばせるための皇帝の施策(パンとサーカス)
があったとのこと。(なるほど~技術力と財源と施策がうまく絡み合っての「テルマエ」建設だったんですね)
日本人はお風呂が大好き💗
第4章は「日本の入浴文化」
日本の入浴に関する美術品や資料が展示されています。日本の入浴は、天然温泉と人工的な施設で行うものに分けられます。前者は、行基や弘法大師と言った高僧による開湯と伝わるところも多く、けがや病気の治療のために訪れる場所でした。のちには温泉を目的とした旅、レジャーへと発展していきます。後者は、汚れや穢れを払う場として寺院内に作られ広まり、江戸時代には、お湯に浸かるという現代にいたるスタイルが定着します。
京都の後醍寺に遺された資料を基に再現した、湯屋の模型は圧巻!
銭湯の暖簾は東西違い一目瞭然。ケロリン桶、牛乳石鹸は、ほっこりとした気持ちになります。
ご当地展示は有馬温泉。
奈良時代の僧・行基による温泉寺開創などの様子が描かれた『有馬温泉縁起絵巻』、、有馬温泉をこよなく愛した、『豊臣秀吉像』など、貴重な資料が並びます。
「テルマエ展」は8月25日まで
皇帝の大衆施策の一環として生まれ、心身の健康を保ち人々の交流の場であった「テルマエ」を愛した古代ローマの人々、温泉大好き、スパ大好きな日本人。共通するのは熱~い、あつ~い、「お風呂愛」ではないでしょうか。
「テルマエ お風呂でつながる古代ローマと日本」
会期:2024年8月25日(日)まで
休館日:月曜日、7月16日(火)、8月13日(火) ※ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・振休)は開館
開館時間:9時30分~17時30分 ※金曜日と土曜日は20時まで(入場は閉館の30分前まで)
会場:神戸市立博物館