アニメの背景を「背景美術」に押し上げた山本二三
皆さんこんにちは!美術館・博物館、アニメ担当、エンカチライターの甲斐千代子です。
「天空の城ラピュタ」「もののけ姫」など、数々のアニメ作品で美術監督を務めた山本二三の画業をふりかえる特別展「アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 THE MEMORIAL」が神戸ファッション美術館で開催中です。
山本二三は長崎県・五島生まれ。高校で建築を学ぶも、アニメの仕事がしたいと上京します。24歳の時に宮崎駿が演出を手掛けた「未来少年コナン」の美術監督に抜擢され、その後も「火垂るの墓」「もののけ姫」など、ジブリ作品で美術監督を務めました。
昔のアニメ作品の背景画は、撮影が終わると廃棄されることも多かったとか。そんな中、山本二三は自分が描いた背景画を管理し保存していました。会場には、初期から最新作までの手書きの背景画や愛用の制作用具など約250点が展示されています。
それでは!山本二三の世界へ、いざ!いざ!
監督の要望に応えて描く背景美術
本展は5つのテーマに分けて作品が展示されています。
第1章のテーマは「冒険の舞台」。『未来少年コナン』『天空の城ラピュタ』『名探偵ホームズ』などの背景画が並びます。
注目して欲しいのはこちらの飛行機。『ルパン三世』で描かれたものなんですが、座席の上に1つ、右側の翼に3つのエンジンが描かれています。つまり、この飛行機には全部で7つのエンジンがある!はずなんですが、実は他の映像では、エンジンの数は5つだけなんです。・・・映像で描かれているのは、ルパンたちが乗った小型飛行機、飛行機の翼の右上から左下に抜けるシーン。距離が短い迫力に欠ける!ということで翼の長さを足して、そうするとバランスが悪いとなり、エンジンを1つ書き加えて。その結果、この背景画のみ7つエンジン搭載の飛行機になったとのこと。監督の要望に応えて背景画の手直しがおこなわれた結果なんです。
監督の要望に応えて描く背景美術
第2章のテーマは、「そこにある暮らし」。『じゃりン子チエ』『火垂るの墓』など現実世界を舞台にした映画の背景美術に注目しています。違和感なく自然に見えるのが当たり前の背景画を描くために、建物の特徴や装飾を丹念に調べ画面に織り込んでいきます。
そのこだわりをダイレクトに感じられるのがこちらの作品。『時をかける少女』の1シーン。主人公の紺野真琴が携帯電話で話をする時の背景に描かれたドラッグストアです。
所狭しと並ぶ商品、商品紹介のポップ、細部まで丹念に書き込まれています。(これは大変だあと感じるの私だけではないはず。)動画による解説がありますので、是非ご確認ください!(山本二三さんの心のつぶやきはくすっと笑えます)原画をじっくり見て確かめたい!という方は単眼鏡を持参することをお勧めします。
見ただけで季節がわかる印象的な二三雲
第3章は「雲の記憶」
山本二三が精力的に雲を描くようになったきっかけのひとつは『未来少年コナン』だったとか。乗り物で空を飛ぶシーンが多く、宮崎駿監督からの注文に応じながら、たくさんの雲を描いたそうです。
『天空の城ラピュタ』では精細なグラデーションの、迫力ある雲を描きました。
『時をかける少女』で美術監督を務めた際には、細田守監督から「天空の城ラピュタのあの雲を表現してほしい」と要望を受けたそうです。
山本二三が描く雲は、「二三雲」と呼ばれるようになります。 光の具合、雲の色と形、立体感、見ただけで季節や時間をかじることができる印象的な雲たちです。
神戸ファッション美術館の亀山正芳学芸部長は「夏雲、夕暮れ、朝焼け、そして雪雲。雲ひとつでこれだけ描き方が違う。二三雲は、見ている人が、どこかで見たことがあるなという雲が非常に多い。そこも人気の理由の一つなんです。」と話していました。
神聖で荘厳な森を描く
こちらは、横に長く描かれた森。『もののけ姫』に登場するシシ神の森です。映画では、神聖で神々しいい雰囲気を出すため、無音という演出がなされました。気になる方は是非、作品を見返してみてください。
長編初監督作品『ミヨリの森』では、キャラクターも描きました。背景画の雰囲気とは一味も二味も違う、優しい雰囲気のキャラクター達です。
こちらは、横に長く描かれた森。『もののけ姫』に登場するシシ神の森です。映画では、神聖で神々しいい雰囲気を出すため、無音という演出がなされました。気になる方は是非、作品を見返してみてください。
長編初監督作品『ミヨリの森』では、キャラクターも描きました。背景画の雰囲気とは一味も二味も違う、優しい雰囲気のキャラクター達です。
忘れがたき故郷
第5章は「忘れがたき故郷」
2010年、アニメの美術監督の第一線を退いた山本二三は、ふるさと五島を描くことをライフワークとします。
画像真ん中下の作品に。海辺での撮影会でしょうか。人が集まって何やら話をしている様子。実はこの中に山本二三本人が描かれています。
背景画を背景美術というアートに高めた山本二三、2023年8月惜しまれながらこの世を去ります。70歳でした。
本展の最後には、追悼メモリアルコーナーが設けられています。兵庫県内を描いた風景画や絶筆となった長崎県・五島の民話を描いた漫画「勘次ヶ城(かんじがしろ)」の下書きなどが並びます。
※『「勘次ヶ城(かんじがしろ)」は五島に伝わる民話。漁師の勘次と河童が登場する。言い伝えは残っているものの、具体的な物語は伝わってきていない。その民話のストーリーを考案し漫画にするつもりで下絵を描いていた。最後のページが、絶筆となっています。
「新・山本二三展」は6月16日まで
神戸ファッション美術館の亀山正芳学芸部長は
「アニメ作品の70%は背景画であり、背景画によって世界感が決まると言っても過言ではありません。と言いつつも、背景画は誰も気にしない、自然にみているものであり違和感を与えない絵作りが必須です。さらに、最近では何度も何度も作品を見返すファンも増え、これまでは注目されてこなかった背景画にスポットが当たるようになってきました。資料を集め、ロケハンを繰り返し、細部まで丁寧に手書きで作りこんでいく背景画。アニメ作品の背景を「背景美術」というアートにまで押し上げた山本二三の画業を、是非堪能していただきたいです。」と話していました。
特別展「アニメーション美術の創造者 新・山本二三展 THE MEMORIAL」
会場:神戸ファッション美術館
会期:6月16日(日)まで
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日
https://www.fashionmuseum.jp/special/newnizouyamamotothememorial/