沿線お役立ちコラム

広がる女性・若手SLファンのネットワーク@大物公園のデゴイチ「八っちゃん」開放日

デゴイチの八っちゃんが米寿を迎えました

神戸在住のチアフルライター、やまさんです。4月16日の日曜日、今年もデゴイチ「八っちゃん(D51 8)」の一般開放が行われました。尼崎市では毎年4月から11月の第3日曜日に大物公園の柵を開放しており、開放日には市内外から多くの見学者がやって来ます。この日の大物公園は藤の花が満開となり、新緑溢れるデゴイチ日和となりました。

今年八っちゃんはめでたく米寿を迎えたとのことで、この日は八っちゃんのメンテナンスを行っている「尼崎デゴイチの会」メンバーにより機関車の顔である煙室の扉に「祝米寿」のヘッドマークが掲出されました。(デゴイチの八っちゃんと「尼崎デゴイチの会」の詳細についてはこちらの記事を御覧ください)

柵の入り口で受付をしているのは、今年の4月から「尼崎デゴイチの会」代表になった田原さん。きかんしゃトーマスのリュックを背負った小さなお客さんの質問に答えています。お客さんは大人になったら機関車の運転士になりたいそうです。

一般開放日には八っちゃんの運転席に座って記念撮影をすることもできます。今回もたくさんの見学者が並んでいました。

「尼崎デゴイチの会」では女性も活躍中

「尼崎デゴイチの会」の紅一点、伊藤彰子さんです。3年半ほど前から会のメンバーと共に八っちゃんのメンテナンスを行うほか、一般開放日には見学者の案内をしています。現在、国内には旧国鉄・私鉄併せて約600輛の蒸気機関車が保存されており、このうちの28輛が動態保存、残りが各地の自治体などで静態保存されています。このSL達は、各地で多くのボランティアや施設の職員の手により整備が行われていますが、このような活動に参加するのは男性の鉄道マンや鉄道OB、鉄道マニアが中心で、SLの整備や保守に興味を持っている女性はほとんどいないそうです。

 

伊藤さんが鉄道に興味を持ったのは約7年前、鉄道好きの友人からSLの面白さについて聞いたことがきっかけです。以来すっかりSLの道にのめり込み、蒸気機関車のオーソリティであるお師匠さんについて修行を続けているそうです。伊藤さんは本業である書道家の傍ら、八っちゃん以外にも兵庫県内外に保存されているSLのメンテナンスにも携わっています。尼崎デゴイチの会の前代表、山本さんからも一目置かれるほどの知識があり、部品の分解整備や運転についても勉強中だそうです。地元阪神にこんなすごい人が居たんですね!

「SLは鉄と胴と砲金でできていて、放っておくとどんどん劣化してしまいます。ですが、こうして磨いてあげれば光るんですよ」と伊藤さん。「砲金」とは銅と錫(すず)の合金のことで、強くて耐腐食性に富むため、古くは大砲の砲身として多く使用されたそうです。蒸気機関車のなかではナンバープレートなど、金色をしている箇所が砲金でできています。

伊藤さんがウェスで拭いた箇所が銀色の輝きを取り戻しました。

メンバーの増田さんがデフレクターというボイラーの両サイドに付いている板状の部品を磨いています。「上半分はくすみがあるけど、油で磨いた下半分はツヤが出ているでしょう。SLってこんなふうに人間が手をかけてあげると応えてくれるんです」「SLを見た人が『綺麗だね』と言ってくれることがいちばん嬉しいです」

こちらでは中山さんが錆止めのために車体に油を吹きかけています。動態静態に関わらずSLの整備には油が欠かせません。蒸気機関車を動かすためには、潤滑油として予め車体にあるたくさんの油壷に給油しておく必要があるそうです。

 

スマートな走りを見せる電車に比べ、真っ黒い蒸気を吐き、時に汽笛を鳴らしながら力強く線路を走る蒸気機関車には生き物のような独自の魅力があるそうです。「ここのところ黄砂がすごかったから私達がメンテに来るまでは八っちゃん、ずっと痒かったんじゃないかなあ」

伊藤さんに保護清掃用のオイルを見せてもらいました。「真っ黒でしょう。SLを磨くときは車のギアオイルやエンジンオイルの廃油を使うんです。全身油まみれになるのでSLの整備をした日は帰りの電車に乗るのにも気を使います。でも私が手掛けたSLが綺麗になってくれたら嬉しいので全然苦にならないんです」

 

「八っちゃんの見学会にやって来るお客さんは、子供連れのお母さんやお父さんなども多いのですが、男性メンバーだとつい専門用語を使って説明してしまうんですね。私は元々何も知らないところから勉強していったので、鉄道の知識がない方にも分かりやすいように説明をするよう気をつけています。見学に来られた方には気後れせず気軽に声をかけてほしいです」

 

伊藤さんに八っちゃんを見学する上で注目してほしいポイントについて伺いました。

「八っちゃんはD51形として8番目に製造された蒸気機関車です。一般にデゴイチと呼ばれるD51形は1,115輛、国内で最も多く製造された貨物牽引車ですが、一桁台のナンバーを有する現存機はとても少なく、存在そのものが貴重です。蒸気を溜めるドームが『ナメクジ』と呼ばれる特異な形をしており、煙室扉と呼ばれる正面の丸い扉に付いているハンドルの形もおしゃれです」

 

「運転室の計器類も比較的よく残っているので見ごたえがあります。他の機関車から譲り受けた部品などもあるので探してみてください。刻印があるので見つけることができます。(例えば、八っちゃんの第4動輪は別の機関車のものと交換されています。詳しくはこちらの記事を参照してくださいね)」

 

「八っちゃんの好きなところは太くて男らしいボイラー、力強い足回りと、どっしりした安定感、くっきりとした直線で構成されたデザインです。そばにいると武蔵坊弁慶を連想します」

 

普段あまりSLを見ないやまさんからすると、蒸気機関車ってどれも同じように見えてしまいます。でも、伊藤さんのようなSLが大好きな人の目には、1輛1輛のSLにそれぞれの個性や特徴がはっきりと見てとれるんですね。観察力が鍛えられていないと、とても損だなあと思いました。

写真提供:伊藤彰子さん

 

これは新潟県上越市直江津駅にある「直江津D51レールパーク」に動態保存されているD51 827号機。伊藤さんはD51 827の整備にも携わっており、ヘッドマークの文字制作を手掛けたこともあるそうです。

 

伊藤さんは蒸気機関車の整備のほか、余暇には鉄道に乗車し、駅舎を訪ね、貨物列車や各地に保存されている蒸気機関車の見学をするなど、多岐にわたる鉄活動を楽しんでいるそうです。今年の4月には鳥取県にある若桜鉄道で開かれた蒸気機関車の体験運転にも参加されたとのこと。このときも女性参加者は伊藤さんだけだったそうです。

 

「今まで見てきた蒸気機関車はどれも好きです。保存状態のよいものも、ひどく荒れてしまっているものもありますが、ひとつとして同じものはなく、どの機関車も愛おしいです。けれど磨いたりして手をかけている蒸気機関車にはやはりひとしお愛着を覚えます」

 

「長い間丁寧な手のかけ方をされてこなかった8号機を少しずつでも光らせていくのが今の一番の楽しみです。ほかの機関車から移された部品などもあり、長年の点検でついた傷なども探っては様々な想像をします。いつか大物公園に素晴らしい蒸気機関車が保存されていると人口に膾炙するようになることが夢です」

 

SLをこよなく愛する伊藤さんに、一番好きな蒸気機関車について聞いてみました。

「一番好きというのとは少し違いますが、非常に親近感を持っているのが、京都鉄道博物館に保存されている『B2010』という小さな蒸気機関車です。もののない戦時中に作られた、これ以上簡素なものはないというくらい簡素で非力な蒸気機関車で、『ビニマル』という愛称で呼ばれています。ビニマルは、本線を貨物や客車を牽いて走ることもなく、機関区で石炭を運んだりするのに使われたマスコットのような存在だったそうです。男性たちにまじって機関車の手入れをする私も力ではかなわないことばかりですが、ビニマルと同様元気いっぱいに楽しみながら自分の本分を尽くしたいと思っています。京都鉄道博物館にいくと必ずビニマルの顔を見に行きます。D51やC62などの大型蒸気機関車とたいてい並んで胸を張っている小さなビニマルは自分の姿を見ているようです」

「手原SL同好会」と「尼崎デゴイチの会」の交流会が開かれました

「手原SL同好会」は滋賀県栗東市手原に静態保存されているD51 403号機の保存サークルです。「尼崎デゴイチの会」のメンバーである中山さんが「手原SL同好会」のお手伝いもしていることから今回縁が繋がり、交流会が開かれる運びとなりました。

 

 

D51 403号機は現役時代、滋賀県の草津線を走っていましたが、国鉄(現・JR)の電化により1973年にその役目を終えました。同年、このデゴイチが栗東町(現・栗東市)民の熱心な要望により国鉄から永久貸与されることになり、JR手原駅前にある稲荷公園へとやって来ました。以来50年にわたりD51 403号機は地元の人々により愛され続け、またメンテナンスが行われてきました。

手原SL同好会の女性メンバー、船江亜由美さん、成美さん親子です。お母さんの亜由美さんのお話によると、稲荷公園は別名「SL公園」とも呼ばれ、子供の頃から稲荷公園で遊んでいたことからD51 403号機のことはよく知っていたそうです。公園の近くに住んでいることもあり、同機のメンテナンスをしていた会長の西村さんに話しかけたところ、親子で入会することになったそうです。

同会は元々鉄道会社のOBが中心になって保存活動をしており、メンバーの年齢層が高く、また鉄道に対するこだわりが強かったことから、新規の鉄道ファンが参加しづらい雰囲気があったそうです。そのためメンバーは減り続け、一時は活動休止状態に。そこで西村さんは若い人や女性にも参加してもらおうと会の方向転換を図りました。現在手原SL同好会には女性会員3名、20代の男性会員が1名おり、会は着実に若返ってきているそうです。現在、亜由美さんが会のホームページ更新やSNSの運営を担当して会の広報活動のお手伝いを、小学6年生の成美さんが、稲荷公園に遊びに来た友達に鉄道やSLの面白さを広めているそうです。

 

 

動画:公園のSLから鳴る汽笛 YouTube 手原SL同好会チャンネル

 

手原SL同好会のメンバーは現在15名。月に1度機体のメンテナンス、公園の清掃活動をしているほか、毎年3月と10月にイベントを開催しているそうです。「稲荷公園は園内に樹木が多いことからちょっと暗くて怖い雰囲気がありました。私達がSLや公園の整備をすることで、公園内も明るく見通しが良くなったと思います」と亜由美さん。「前回の整備ではD51 403号に付いている本物の汽笛を鳴らすことができたんですよ」と嬉しそうでした。

 

また、20代の男性メンバーが紙コップを使って、なぜ鉄道の車輪は走行中脱輪せず走れるのか、誰にでもわかるようにデモンストレーションをしたこともあるそうです。

 

メンバーの中には、現役の頃甲子園球場のバックスクリーンの企業広告文字を制作されたという96歳の方も。手原SLの会ではデゴイチに掲示する看板制作をしているそうです。

中山さんが手原SL同好会の皆さんに八っちゃんの解説をしています。こうした形で各地のSL保存会との交流の輪が広がるといいですね!

KATO京都駅店から八っちゃんモデルが限定販売

田原さんからすごいものをみせていただきました。これは鉄道模型メーカーとして有名なカトー(KATO)のコンセプトショップ、KATO京都駅店から特製品として昨年の12月に販売された「D51 8 厚狭機関区」のNゲージ模型。KATO京都駅店では有名な車輌だけでなく、地方で静態保存されている割とマイナーなSLの模型も独自に製造販売しているそうです。製作数が少なく、大変貴重な逸品です。

 

 

こんな立派な模型を見ると、世の中には八っちゃんの価値をよく分かっている人がちゃんと存在するんだなあと思えてきますね。

大物にタイガースのファームがやって来ます!

 

動画:阪神電鉄【公式】阪神タイガース ファーム施設移転プロジェクト

 

今年3月から、大物駅の南側にある小田南公園の整備工事が始まっています。これは阪神タイガースの二軍ファーム建設のためのもので、2025年2月に同公園は「ゼロカーボンベースボールパーク」として運営が開始されるそうです。これにより大物駅にやって来る野球ファンが増え、大物公園の八っちゃんを目にする人の数も増えることが予想されます。今後ますます八っちゃんのファンが増えてくれることに期待大です。

 

2023年のデゴイチ八っちゃんの一般開放日

開催日:4月から11月の毎月第3日曜日

2023年の開放日:5/21、6/18、7/16、8/20、9/17、10/15、11/19

開催時間:10:00〜16:00(12:00〜13:00は開放休止)

申込み:不要

問合せ:06-6423-9996

開催場所:大物公園 阪神大物駅から北へすぐ 

 

 

手原SL同好会HP

手原SL同好会インスタグラム

手原SL同好会Twitter

 

【参考】

日本にある蒸気機関車HP

直江津D51レールパーク

KATO D51 8 厚狭機関区

 

【おまけ】

2022年10月14日、日本の鉄道が開業150年を迎えたということで、昨年は様々な鉄道会社で記念イベントが開かれました。そのうちのひとつ、こちらの動画で全国のSLの汽笛一声吹鳴を聞くことができます。とても感動的なので是非聞いてみてくださいね。

 

文/チアフルライター やまさん

やまさんの過去の記事はこちら

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