人の真似をするな! 具体美術協会の本質に迫る展覧会
こんにちは!美術館・博物館担当、チアフルライターの甲斐千代子です。
大阪中之島美術館と、道路一本を隔てて隣り合う国立国際美術館の共同企画「すべて未知の世界へ-GUTAI 分化と統合」が開催中です。
GUTAI・「具体」と略される「具体美術協会」は、戦前から前衛画家として活躍していた吉原治良をリーダーに阪神間の若手作家が集まり1954年、兵庫県芦屋市で結成されました。
グループ名「具体」は『われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示したい』という思いをあらわしています。『人の真似をするな』を合言葉とし、屋外や舞台を使って作品発表を行うなど、それまでの芸術の枠にとらわれない自由で奇想天外な発想から生まれる作品は、当時、日本国内よりも海外で注目を集めます。1972年吉原治良が亡くなるとグループは解散しますが、その後も海外で数多くの回顧展が開かれてきました。
会場となっている2つの美術館がある大阪中之島は、活動拠点である「グタイピナコテカ」があった「具体」ゆかりの地。また、今年2022年は、「具体」の解散から50年の節目の年でもあります。
誰の真似もせず、ひとりひとりが「すべて未知の世界へ」突き進んでいった、「具体」メンバー、その歩みを確かめるべく、いざ会場へ!
分化 大阪中之島美術館
田中敦子≪電気服≫1956/86 高松市美術館
まずは大阪中之島美術館へ。こちらの会場のテーマは「分化」。個々の作家の作品にフォーカスし、どこに独自性が発揮されているのかをあぶりだそうという試みです。
キーワードは「空間」「物質」「コンセプト」「場所」の4つです。
電球やコードから得たインスピレーションを基に絵を描いた田中敦子。彼女が1956年に発表した≪電気服≫は電球と管球を組み合わせて仕立てた作品です。
と、いきなり点滅を初めてびっくり!キャプションを見ると… 「約30分おきに30秒ほど点滅します」とのこと。
点灯することで「空間」へ力強いアプローチ、影響を感じることができます。
床に広げたキャンバスに大量の絵の具を置き、天井から吊り下げたロープにつかまり素足で描く独自の技法「フット・ペインティング」を確立した白髪一雄。大作がずらりと並びます。鮮やかというよりは毒々しい厚みのある『赤』が視線をとらえて離しません。是非、ギリギリまで近寄って、目を凝らしてみてください。絵の具だけではなく様々な素材が使われているのが見て取れると思います。白髪一雄の「コンセプト」を感じてみてください。
展示会場の外では… !
向井修二≪記号化されたトイレ≫2022年
大阪中之島美術館展示会場を後に、次は国立国際美術館へ、とその前に、お花畑(お手洗い)へと足を運ぶと、なんと、そこは!幾何学模様のような、記号のようなものが壁にも床にも鏡にも(鏡の役割は果たしておりませんでした(笑))
お手洗いが丸ごと作品に!
自分が作品の一部になったような気分。若干落ち着きませんが、もちろんお手洗いとして使用することもできます。
向井修二≪アバター1.2.3.4.5≫2022年
館内には何体かのアバターが展示されています。その中の1体が身に着けている衣装に、なんとマジックで書き込みすることが可能です。私もサインを書いてきましたよ~。この画像は、オープニングセレモニーが行われた10月21日に撮影しました。すでにいくつもの書き込みがありました。ということは、きっと今頃は…
統合 国立国際美術館
国立国際美術館の展示テーマは「統合」
「人の真似をするな。誰も見たことのないものを作れ」いう合言葉のもと、バラバラなのにまとまっているグループ「具体」。彼らが集団として共有していた理念とは何なのか、作品を通して検証しようという試みです。
第1章は、握手の仕方。
絵画は普通、画家(=精神)が絵具(=物質)をうまくコントロールして成立するものです。しかし、「具体」はその関係性を崩そうとしました。本展覧会ではその方法を大きく3つに分類しています。
絵の具ではない存在感の強い異物を画面に混入、あるいはまき散らすことで画家のコントロールの及ばない画面を作り上げる。また、筆を使わず、指や足、時にはそろばんなども使って、わざと不器用に描く。繰り返す反復作業を続けることで、描くのではなくリズムによって「描かされている状態」で描いていく。
金山明はラジコンカーを操作して絵を描かせました。
第2章は、空っぽの中身。
何か作品を作る時作家はそこに意味や思いを込めるもの。
しかし、この章では、作品に特定の意味を持たせない『無意味』を目指す、意味のある絵画から自由になろうとした彼らの姿を、作品を通して浮かび上がらせます。
第3章は、絵画とは限らない。
活動の初期においては画家たちの集団だった「具体」が、絵画という規範それ自体からの自由を目指して試行錯誤を繰り広げ作り上げた作品を展示しています。
バラバラなのにまとまっているグループ「具体」。彼らが集団として共有していた理念とは何なのか。みなさんはどう感じるでしょうか。
共同開催 企画から展示まで 展覧会を作り上げた学芸員の想い
今回の展覧会は共同開催ということで、担当者が2人います。お互いの展示について伺いました。
「分化」担当 大阪中之島美術館 國井綾 主任学芸員から見た「統合」
「具体の『統合』をテーマとする国立国際美術館の最大の魅力は、具体というグループが持っていた『自由』が表現されていることだと思います。自由という言葉は魅力的です。自分が思うとおりに何をしてもよい。ところが私たちは自由になったとたん、不自由さを感じることにもなるでしょう。『自由といわれても、何をしたら良いのかわからない』といったような。具体の会員たちもおなじで、不自由に自由を追求したのでした。国立国際美術館では、具体における自由の実践を、『絵画』をキーワードとして紹介しています。どのように自由に絵画を描いたのか、あるいは、絵画からどのように自由にな
ろうとしたのか。『絵画』から、さまざまに広がっていく具体の表現を存分に体感することができます。ヨシダミノルや聴濤襄治らのキネティック・アートもお楽しみに」
「統合」担当 国立国際美術館 福元崇志 主任研究員からみた「分化」
「眼にまぶしい色彩や、存在感のありすぎる素材、等々。具体の提示する作品は、どれもこれも強く、熱量の高いものばかりです。それらの作品が、ところ狭しと並ぶ分化編会場では、当時の具体が発していたであろうエネルギーのほとばしりを、まさに追体験させてくれるでしょう。また、具体の『脱』絵画的な実験を多く紹介しているところも、分化編会場の魅力です。展覧会冒頭を飾る田中敦子の《作品(ベル)》や《電気服》、吉原通雄の紙テープを使った《作品》をはじめ、会場外で見られる元永定正の《作品(水)》や、向井修二の《記号化されたトイレ》や、吉田稔郎の《FOAM-A》など。鑑賞、もとい、体験するべき作品が多く並ぶ貴重な機会だと思います」
GUTAI 共同開催
最後にもう一つ、国立国際美術館での展示作品をご紹介。
手前の木の箱、青いラインから中には近づけませんが… 可能な限り近づいて耳をすませてください。あ、この規則正しいリズムは!是非会場でお確かめください。
大阪中之島美術館 国立国際美術館 共同企画
「すべて未知の世界へ - GUTAI 分化と統合」
会期:2023年1月9日(月・祝) まで
休館日、開館時間は各美術館のHPでご確認ください。
大阪中之島美術館
https://nakka-art.jp/exhibition-post/gutai-2022/
国立国際美術館
https://www.nmao.go.jp/events/event/gutai_2022_nakanoshima/
文/チアフルライター 甲斐千代子
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