西元町にデゴイチカフェがオープン
こんにちは。最近「機関車トーマス」にハマったチアフルライターのやまさんです。皆さんは、JR神戸駅の東側にデゴイチが保存展示されているをご存じですか?西元町にはこのデゴイチ、D51 1072号機のメンテナンスや保存活動をしている「神戸・西元町のD51を守る会」、そしてデゴイチの保存活動の発案者である木村さんが昨年の12月にオープンした「デゴイチカフェ」があります。今回はその活動の様子についてご紹介します。
北海道からやってきたD51 1072
写真:室蘭本線を走る現役当時のD51 1072号機。松宮浩氏撮影
「デゴイチ」という愛称で今なお鉄道好きの間で愛されている国鉄D51形蒸気機関車は、日本で最も数多く作られた貨物用機関車です。1936年から1945年の間に合計1115輌製造され、急勾配でも絶対に止まることのない車輛として高い評価を得ました。D形は動輪4軸8輪を持ち、スピード重視の旅客専用車輛である3軸6輪のC形に比べ、車輪が小さく牽引力に秀でていました。D51型は1975年にほぼ全ての蒸気機関車が引退しましたが、全国各地にSLの車体が静態保存されており、JR西日本に1輌(200号機・SLやまぐち号)、JR東日本に1輌(498号機・「SLぐんま みなかみ」を中心に様々なイベントで運用)、合計2輌が現在も動態保存されています。
JR神戸駅近くに保存されているD51 1072号機は、1944年2月27日に名古屋市の日本車輌本店で製造されました。第二次世界大戦で資材や熟練工員が不足する中、一部を代用材料とした「戦時形」としてデビューし、北海道の函館、旭川、滝川などで活躍、最後は室蘭本線追分機関区を走りました。
1975年に国内の蒸気機関車の全ての営業が終了した時、同車輌は苗穂工場に保管されていました。1978年、「国鉄最後の蒸気機関車の1輌をぜひ神戸市に」と、神戸ライオンズクラブが神戸市に依頼、旧国鉄から無償で貸与されました。車輌は苗穂工場から神戸の湊川貨物駅まで5日半かけて運ばれ、1978年7月15日、元町商店街西口前の「グリーンD51広場(現・きらら公園)」に静態保存展示されました。この広場が再整備の対象となったため、1992年8月に現在の場所に移設されました。
地域の人たちが集まれる場所「デゴイチカフェ」
デゴイチカフェを運営しているのはNPOあいあいネット神戸代表理事の木村由巳子(ゆみこ)さん。介護福祉士やケアマネージャーとしての介護の仕事の傍ら、20年前に近所の高齢者の人たちが集まれる場所作りをと、デイサービス「あいあいの会」を立ち上げます。それは後にNPO法人「あいあいネット神戸」となり、西元町の事務所を拠点に様々な地域活動を展開。今では「あいあいの会」のほか寄席・ミュージックランチ会・セミナーなどを開き、高齢者や障がい者を支援、6年前からは地域の人々が繋がるための「街角サロン」活動を行なっています。
約5年前、西元町の地域清掃活動をしていた木村さんは、JR神戸駅のすぐそばに静態保管されている蒸気機関車を目にします。雨の筋がいくつもつき、錆が浮いたまま何の手入れも施されていない様子を見て、涙が出るほどかわいそうに思ったそうです。木村さんはすぐにそのSLの由来を調べ、持ち主である神戸市に掛け合ってメンテナンスの許可を取り付けます。そして2019年8月に鉄道好きの飯野さんとその仲間達と共に「神戸・西元町のD51を守る会」を発足。さらにその年の10月には「みなと元町タウン協議会」の主催で第1回目の「神戸・西元町D51まつり」を開催しました。更に街角サロンの一環として事務所の1階で運営していた「街角カフェ」を発展させる形で、昨年12月5日「デゴイチカフェ」をリニューアルオープンしました。
「鉄道ピクトリアル」のバックナンバーなど、鉄道に関する書籍や雑誌が並んでいます。これは全て有志から寄贈されたもの。店内ではグッズ販売も行なっています。
鉄道員から愛されたハチクマライス
写真:ハチクマライス680円
その昔、旧国鉄職員の賄いで、ご飯の上にハムエッグを乗せウスターソースをかけた「ハチクマライス」と呼ばれる料理があったそうです。「ハチクマ」とは、古典落語に出てくる八つぁんと熊さんのことで、粗忽者のハチや荒っぽいクマ、つまり誰もが簡単に美味しく作れる料理という意味。さいたま市の鉄道博物館、京都鉄道博物館内の食堂メニューにも入っているそうです。デゴイチカフェではこの独自のアレンジを加えたハチクマライスの他、鉄道にちなんだサンドイッチやパスタ、カレーなどのメニューを順次増やしていくそう。
この空間は、水曜日と土曜日に地元の高齢者の自立生活を支援するデイサービス「あいあいの会」の会場として使用されています。「デゴイチカフェ」はその空いた曜日(月・火・木・金)を利用して開店、このカフェは西元町のデゴイチを通して近隣の一般住民の交流の場になることを目的としています。オープンして間もないデゴイチカフェでは現在お店のお手伝いをしてくれる方を募集中だそうです。
2年ぶりに開かれたデゴイチまつり
コロナの影響が落ち着きを見せ始めた昨年の12月5日、D51まつり実行委員会、みなと元町タウン協議会、もとまちハーバー懇談会、そして神戸・西元町のD51を守る会の主催により、2年ぶりに「D51まつり」が開催されました。D51まつりではスタンプラリーが行われ、特設会場ではゲストアーティストによるパフォーマンス、食べ物や鉄道グッズの屋台が並びました。
特設会場の様子
スタンプラリーを完走し、完成したデゴイチの塗り絵が車輌前に展示されました。
この日は情報を聞きつけてわざわざ京都から来た鉄道マニアの人もいて、全国で静態保存されているSLについて興味深い話を聞くことができました。
D51 1072号機ってどんな機関車?
今回のD51まつりのために取り付けられた999のヘッドマーク。「今まではコロナで引きこもっていたけれど、そろそろ外へ飛び立ちませんか?」という意味が込められているそうです。
「D51まつり」の日、デゴイチが保存されているD51広場では普段入れない柵の中で、「守る会」の有志の方達からD51 1072号機とはどんな機関車なのか、詳しい解説を聞くことができました。
SLの運転台には煙が充満しやすいためドアがないのが一般的ですが、D51 1072号機には北海道という寒冷地で使用されたためドアがついています。側面の「神」という字は「神戸機関区」所掌車輌という意味(実際には神戸機関区は存在しませんでした)だそう。運転台の反対側には同車両が実際に所属していた滝川機関区を示す「滝」の字があります。
同車両はD51の中でも特に「戦時型」と呼ばれ、第二次世界大戦による資材不足、徴兵により熟練工が不足する中で工夫を凝らして製造された車両です。燃料となる石炭と水を運ぶ炭水車(テンダー)の下部が、従来の四角いものと違い、船底のような形(船底テンダー)になっています。この形には、製造工程の簡略化と鉄板の曲げ構造により台枠を用いずに強度を上げる目的がありました。
機関車のボイラー上にある「かまぼこドーム」と呼ばれる蒸気溜と砂箱のカバー(赤丸の中)。これもまた戦時型の特徴のひとつで、従来のものより簡略化されています。ボイラーのサイドについているランボード(歩み板)は資材不足のため木製でした。この他にも戦時型はボイラー周りのリベットなどがギリギリまで簡略化されたそうです。このように危険な構造であった戦時型車両は戦後補修を受け、従来型のものと共に1975年まで走り続けました。
うっすらと「鷹取工」という字が読み取れますが、これは神戸の鷹取工場でメンテナンスされたという意味だそう。
「神戸・西元町のD51を守る会」の活動
D51まつりの数日後、「神戸・西元町のD51を守る会」の保存活動の様子を見学させてもらいました。これはクリスマスバージョンへと衣替えの真っ最中のD51 1072。この日は寒風の吹き荒ぶなかメンバーが集合、飾りつけや柵内の清掃を行いました。サンタの帽子は木村さんの手作り。飾り付けや車両のメンテナンスをしていると、自然と人が集まって来るそうです。
完成後のナイトモード。電飾は太陽光で蓄電するLED。暗くなると勝手に発光するそうです。
会のメンバーは現在15名程。どのメンバーも鉄道や機械に詳しい人ばかり、しかも神戸を走る鉄道会社各社に縁のある人もいるそうです。メンバーは2ヶ月に1度のペースで車両の塗装や修繕、敷地内の清掃活動などを行なっています。時間をやりくりしてSLの保存活動を続けるのは大変なことだと思うのですが、「守る会」代表の飯野さんによると「オタクにとって実物の列車は1/1スケールの模型と同じ」なので、メンバーにとって本物のSLを触るのはとても楽しいことなのだそうです。メンバーの皆さんは地域のためにとボランティアで車両の保護活動をしています。
「車両の手入れをすると周りの人が喜んでくれ、こうして綺麗になったデゴイチを見学に来てくれる人も増えるので一挙両得です」と笑顔で話す飯野浩三さん。飯野さんは元国鉄マンで1976年に入社し、1987年に国鉄が解体する年まで神戸の旧国鉄鷹取駅にある鷹取工場でSLや客車のメンテナンスをしていました。現在はタクシードライバーの傍ら、趣味の鉄道写真の撮影に勤しんでいるそう。因みに飯野さんが勤務していた鷹取工場には「義経号」「若鷹号」という愛称のSLが最後まで残っていました。現在義経号は京都鉄道博物館に、若鷹号は京都嵯峨野のトロッコ嵯峨駅構内にある19世紀ホールに保存されています。
クリスマス後、デゴイチは更にお正月バージョンへと衣替えされました。次回のデゴイチの飾りつけやD51まつりの情報は神戸・西元町のデコイチを守る会 Facebookグループで確認できます。
D51 1072を通して地域交流の輪をさらに拡大
写真:第2回D51まつりのポスター。イラストは宝塚市在住の乗り物イラストレーター・井上広大氏によるもの。
木村さんはD51 1072号機の保存活動やイベントを通して、地域の人々が交流できる居場所が作れたらと「デゴイチカフェ」を立ち上げたそうです。現在デゴイチが保存されている場所は、1889(明治22)年に東海道本線が開業した当時の終着駅、日本初の鉄道のための跨線橋である相生橋のあった場所です。実は当時の始発駅となった東京都千代田区の新橋駅前にもC11 292号機というSLが静態保存されており、製造場所が同じで生まれ年もわずか1年差など共通点が多いことから、「神戸・西元町のD51を守る会」ではD51 1072号機とC11 292号機とで何か一緒にやれたら、と考えているそうです。両駅のSLの交流を通して、西元町の地域交流の輪がさらに広がるといいですね。
写真:デゴイチカフェで発売中のキーホルダー
【情報】
デゴイチカフェ
アドレス:神戸市中央区元町通7丁目3−2
電話:078-380-3302
営業時間:月・火・木・金曜日 11:00〜18:00
【参考】
「SLの王者」D51形、日本全国を駆け巡った名場面 東洋経済ONLINE
新橋前のSLは現役時代、東京を走ったことがない マイナビニュース
文/チアフルライター やまさん
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