沿線お役立ちコラム

芦屋市立美術博物館 開館30周年記念特別展「限らない世界/村上三郎」展 開催中

旅立ちから25年 作家村上三郎の世界に迫る展覧会

こんにちは!美術館・博物館担当、チアフルライターの甲斐千代子です。

芦屋市立美術博物館の開館30周年を記念した特別展「限らない世界/村上三郎」展が開催中です。

 

同館で「村上三郎展」が開催されるのは2回目。前回1996年の展覧会では村上本人も企画・構想に参加していましたが、開幕直前に急逝。内容を一部変更しての開催となったそうです。

 

前回の開催から25年、村上三郎が旅立ってから25年、そして、同館の開館35周年と、3つの節目を迎えた今年、まさに記憶に残る、残したい展覧会。

それでは、村上三郎の世界へGO!

村上三郎の代名詞 <紙破り>

具体美術協会の中心メンバーとして活躍した村上三郎は、1955年の第1回具体美術展でクラフト紙を体で突き破って通り抜ける、通称<紙破り>を発表します。村上自身のパフォーマンスと相まって強烈な印象を残した<紙破り>は村上の代名詞ともなり、1994年まで約40作品が披露されました。

 

会場には、村上本人が保管していた、紙や資料などが並びます。

 

<紙破り>が生まれたきっかけは、自宅での出来事でした。隣の部屋にいた当時3歳の息子さん。お父さんに遊んでほしくて、ふすまをバンバン叩いているうちに、勢い余って突き破ってしまったのだとか。その様子を見た村上三郎「おもしろい!」 紙破りという作品の構想が生まれた瞬間でした。

 

会場には、実際に息子さんが突き破ったふすまの一部も展示されています。よく見ると可愛らしいラクガキも。

風景画や人物画から抽象表現へ

村上三郎は、1943年関西学院大学に入学、在学中に油絵をはじめ、卒業後は新制作協会で発表を続けます。

その後具体美術協会の会員に。作品は人物画や風景画から抽象表現へと変化していきます。

 

画面中央、1957年発表の≪作品≫ 元々は長辺が3mを超える約500号という大きな作品でした。後に分割され、残された3つの作品のうちの一部が展示されています。

白い部分が地塗り、赤➡黒➡ニカワ、その上に塗料がのっています。時間とともに乾燥がすすみ、重力の影響も受けて剥がれ落ちていく。通常は作品保存のためにアクリルで加工するのですが、芦屋市立美術博物館では、制作されたときのまま、自然のまま展示しています。

 

「人の皮膚みたい、生きているみたい」思わずつぶやくと、学芸員さんが「まさに、生きていると思います。最後に何もなくなる、それが完成なのかもしれない」とのこと。

剥落した塗料がどんな状態なのかは、画面右の作品を見ると…

村上の手で生み出された時が完成なのではない。作品たちは、作家がこの世を去った後も歩み続けています。

「限りない」のではなく「限らない」 世界

会場には約60点の絵画とともに、約100点の資料も展示されています。当時のノートやメモ書きには、美しく整然と文字が並びます。理論的な文章がびっしり。村上三郎が絵画について思考を深める様子が見て取れます。

展覧会のタイトル「限らない世界」は、村上が書いたメモの中にあったコトバです。

「限りない世界」➡「限らない世界」

「限りない」は状況を表しているだけですが、「限らない」は、主体の気持ちや意志が感じられるコトバ。

ここにも、村上三郎の強い思い、意志を感じることができます。

鑑賞者のアクションで完成する作品たち

手前の大きな木の箱、上面には丸いしるしがついています。そこに耳をあてると… 聞こえてくるのは?

奥にぶら下がる四角い木枠 ≪あらゆる風景≫

館内から外の景色を、窓際から館内の様子を、友人を立たせて外の景色とともになど鑑賞者のアイデアや立ち位置によって、切り取る風景は様々。

 

村上の作品に対して、鑑賞者がアクションを起こすことで、本当の意味での作品が完成するんです。(またまた深い!)

展覧会概要

担当学芸員からのメッセージ

「『紙破り』のイメージが強い村上三郎さんですが、絵画と真摯に向き合い、描くこと、表現することを深く探究し、多くの作品を残しました。本展では、1947年の学生時代の作品から、新制作協会や具体美術協会で活動していた作品のほか、能動的な表現を放棄したかのような1970年代の個展、1990年代の芦屋市展出品作まで、約60点の作品をたくさん資料とともにご覧いただけます。併せて、1950年から終生携わった美術教育も紹介しています。この機会にぜひお運びください」

 

すぐそばに村上三郎の魂を感じられる、そんな展覧会。コロナ対策を万全に。是非足をお運びください。

 

「限らない世界/村上三郎」

芦屋市立美術博物館

会期

2021年12月4日(土)~2022年2月6日(日)

休館日

月曜日(ただし1月10日開館、1月11日は休館)

観覧料

一般 800円、大高生 500円 中学生以下無料

※その他割引があり、詳細はホームページでご確認ください。

 

https://ashiya-museum.jp/

 

文/チアフルライター 甲斐千代子

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