沿線お役立ちコラム

【中編】10月1日はコーヒーの日 元町・三宮喫茶店巡り

関西初のサイフォン式コーヒー専門店「エビアン」

大正時代から昭和初期までハイカラな商店街として知られた元町。外国人客も多く、元町をそぞろ歩く「元ブラ」がモガ・モボ(注)の間で流行し、お洒落なカフェや喫茶店も数多くありました。

 

戦後になると、元町商店街はジュラルミン街として復活、神戸港からやってくる船乗りや定期航路の乗客、乙仲通りで働く貿易関係者が日増しに増え、以前の活気が戻っていきました。90年代初期までは、やまさんも真っ白いセーラー服に身を包んだかっこいい船員さんを時々見かけました。そうした往時の元町の空気を色濃く残している喫茶店、それが元町商店街の東端、神戸大丸のすぐ近くに位置する「エビアン」です。

 

(注)モガ・モボ:モダンガール・モダンボーイ。大正時代にいた、流行の最先端を行くファッションリーダー的な若者達のこと。

内装はシックな「神戸家具」でまとめられており、開業当時の雰囲気を残しています。「神戸家具」とは、神戸開港に伴い居留地や雑居地から依頼された西洋家具の修繕や再生販売を船大工などが請け負ったことに始まる、神戸で発達した独自の洋家具のことです。

 

創業者の鎌田真也氏は元々貿易の仕事をしていましたが、知り合いにコーヒー屋さんがいたことがきっかけになり、東京でコーヒー修行の後1952(昭和27)年、関西で初のサイフォン式コーヒー専門店「エビアン」をここ元町で開業しました。開業当初からケーキやサンドイッチといった洋食をコーヒーと共に提供していたエビアンには多くの外国人船員や貿易関係者が訪れたそうです。

カウンターの衝立てがガラス製になっており、コーヒーを点てる様子が見やすくなっています。サイフォンで5杯立てにしている理由は1度にたくさん作った方がより美味しくなるからだそう。

 

店名の「エビアン」は、ミネラルウォーターの産地として世界的に有名なフランスの観光保養地「エビアン=レ=バン」から採ったもの。(店名がつけられたのはミネラルウォーターのブランド「エビアン」が日本で知られるようになる遥か以前の話です)マスターによると「コーヒーの味は粉・水・点て方の3要素で決まる」のだとか。神戸の水も六甲山系の布引の水から来ており、世界中の船乗りから「赤道を越えても腐らない水」「神戸ウォーター」と言われ、好んで外航船に積み込まれました。「エビアン」には神戸の上質な水を使った美味しいコーヒーを出していますよ、という意味合いが込められていたんですね。港町神戸らしい素敵なネーミングだと思いました。

エビアンロールケーキセット 750円

「エビアン」のコーヒーは自家焙煎のオリジナルブレンド。モカとブラジル種をベースに5種類の豆を使用しており、マイルドで深みのある味を特徴としています。

昭和27年、開店して間もない頃の店舗と従業員さん達。最盛期には毎日平均500〜600人ものお客さんが訪れ、息をつく暇もないほどの忙しさだったそうです。現在は息子の良司さんがマスターをしています。若い頃は父の真也さんと一緒に、トータルで50年間働いてきたそうです。マスターのお兄さんとお兄さんの奥様もここで一緒に働いています。

創業者鎌田真也氏による切り絵。アートやデザインが得意だった真也氏はお店のロゴマークやマッチのデザインも手がけました。クリスマスには自作の切り絵を店舗の壁一面に飾りつけたこともあるそうです。現在、店内の絵や写真のレイアウトはマスターのお兄さんが担当しています。

店頭では持ち帰り用のケーキやコーヒー豆の販売もやっています。3代目は伊丹の工場でエビアンに卸すケーキ作りを専門にしているそうです。

 

エビアンを一言で形容するなら「令和のモガ・モボ」といったところでしょうか。元町のなかでも飛び抜けてお洒落でハイカラな喫茶店です。

エビアン

アクセス:神戸市中央区元町通1-7-2

阪神・JR元町駅からすぐ

電話:078-331-3265

Instagram

営業時間:

平日 8:30〜18:30 / 日祝 9:00〜18:30

モーニング:開店から11:00まで

定休日:第1・第3水曜日(祝日営業)

高度経済成長期に誕生した個性派「茜屋珈琲店」

「茜屋珈琲店」は1966(昭和41)年、船越敬四郎氏が三宮に開いた喫茶店です。時代はまさに高度経済成長期、神戸には既に数多の喫茶店がありました。そんな中、船越氏は三宮の繁華街の一角に他店とは一線を画すスタイルの喫茶店をオープンさせます。客席はカウンター16席のみ。内装は元建築関係だった船越氏が自ら手がけました。焙煎はプロに任せようということで、当時から炭火焙煎に定評のあった萩原珈琲の豆を仕入れることに。さらにサイフォン点てが主流だった時代にペーパードリップの1杯点てにこだわり、当時1杯80円だったコーヒーを茜屋では270円から最高995円の価格帯で提供。茜屋珈琲店独自の高級喫茶店スタイルは「茜屋スタイル」と呼ばれ、フォロワーが全国で茜屋スタイルの喫茶店をオープン、船越氏に自己申告に来たそうです。神戸にも茜屋スタイルの喫茶店がいくつかあるそうです。フランチャイズにしなかったというのが面白いですね。

茜屋珈琲店のロゴ

この書体の看板、様々な絵付けの高級カップが並んだ棚、ペーパーフィルターで淹れたコーヒーが茜屋スタイルの特徴。

2代目オーナーの若山氏は茜屋珈琲店のファンで大のクラシック好き。神戸で会社勤めをする傍ら、三宮や元町へレコードを買いに行くと必ず茜屋へ寄るというのがお決まりのコースでした。元々店内でタンゴや映画音楽などをかけていた船越氏から相談を受け、お店でかけるクラシックレコード100枚を選んだことが縁になり、この店を継ぐことになりました。船越氏自身はカップを仕入れていた大倉陶園から本社の敷地内に店を開かないかと誘われ、5年後に軽井沢へ。現在船越氏自身が手がけた茜屋珈琲店は三宮のほか軽井沢に3店舗、東京に1店舗あるそうです。若山氏は勤めていた会社を辞めず、ずっと茜屋の経営と二足の草鞋を履いていたそうです。

現在のオーナー・マスターである3代目の森さんは生粋の神戸っ子。大学に通っていた19歳の時、茜屋のアルバイト募集に応募し、50倍の競争率の中から選ばれました。以後は京都の大学に通いつつ、夕方から22:30まで茜屋で働き帰宅する生活を送り、卒業後も茜屋に留まり、以来23年ずっとこのお店で働いているそうです。

豆が新鮮で焙煎が深いと豆がこんな風にモコモコに膨らむのだそうです。

茜屋特製ブレンド 700円

コロンビア・スプレモを基本に数種類の豆をブレンドしたもの。どっしりとしつつマイルドな口当たりになっています。オーナーお薦めの木蓮のカップに入れていただきました。大倉陶園のカップ200客の中からマスターがお客さんのイメージに合わせて出してくれます。自分で好きなカップを選ぶこともできますよ。

高いが旨いお菓子セット 1,450円

チョコレートケーキは40年前から2代目オーナーの奥様の手作り。コーヒーは萩原珈琲イチオシのサントス・ニブラ。深煎り豆の重厚な苦味と豊かなコクがあり、ケーキと良く合います。

森さんが胸につけているJ.C.Q.A (全日本コーヒー商工組合連合会)の珈琲インストラクター1級認定バッジ。コーヒーチェリーのデザインが可愛いです。

店内はクラシックレコードが流れ、時に振り子時計の「ボーン、ボーン」という音も聞こえてきて、とても落ち着いた空間です。お喋りやスマホを眺めるよりも、ぼーっと音楽に耳を傾け、お店の雰囲気を味わうのが茜屋珈琲店での最も相応しい過ごし方のような気がしました。試しに家で茜屋さんでかかっていた曲をYoutubeで聞いてみたのですが、茜屋さんで聞くのとは全然感じが違うのですよ。茜屋珈琲店の根強いファンが多い理由が分かった気がしました。

 

森さんのお話では、最近はビジネスマンや高齢のお客は減少気味で、代わりに女性や若いお客が増えたそう。ここ数年、喫茶店では禁煙化が急速に進んでいますが、茜屋では10年ほど前に完全禁煙に切り替えたそうです。理由はスタッフが誰も煙草を吸わなかったことと、森さん自身が「煙草の匂いはコーヒーの香りの邪魔になり、本来のコーヒーがきちんと味わえない」と考えているから。

 

茜屋珈琲店では現在インターネットの活用に力を入れており、もっと若い人に来て欲しいと思っているそうです。レトロ喫茶店ブームが来ていると言われる喫茶店業界にも新しい世代の潮流が訪れているようです。

 

茜屋珈琲店

アクセス:神戸市中央区北長狭通1-9-4

神戸三宮駅から徒歩5分

営業時間:12:00〜20:00

定休日:コロナのため不定休

電話:078-331-8884

オンラインストア(Instagram、Twitter、ブログも)

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この記事は前編・中編・後編に分かれています。

10月1日はコーヒーの日 元町・三宮喫茶店巡り【前編】(1/3)

10月1日はコーヒーの日 元町・三宮喫茶店巡り【中編】(2/3)

10月1日はコーヒーの日 元町・三宮喫茶店巡り【後編】(3/3)

 

文/チアフルライター やまさん

→ やまさんの過去の記事はこちら

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