沿線お役立ちコラム

実はカンタンに予防できる「胃・十二指腸潰瘍」

兵庫医科大学病院 消化管内科 主任教授の三輪洋人です。今回のコラムでは、古くから日本人を悩ませてきた病気の一つである「胃・十二指腸潰瘍(かいよう)」について解説します。

昔は死に至る恐ろしい病だった?

胃や十二指腸の粘膜が深く欠損した状態が潰瘍で、穴が開いてしまうこともあり、痛みに限らずさまざまな症状が出ます。胃・十二指腸潰瘍は、古くは「死に至る恐ろしい病」と言われてきました。吐血や下血を伴って命を落とす方も多く、あの文豪・夏目漱石も胃潰瘍で亡くなりました。しかし、近年の医療の進歩により、そのイメージは大きく変わってきています。

胃・十二指腸潰瘍の原因と治療法は?

約30年前にピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が発見され、胃・十二指腸潰瘍の最大の原因がピロリ菌であることが分かりました。潰瘍になる人は、季節の変わり目に増えます。ピロリ菌がいる場合、気候の変化によるストレスも原因の一つとなるのです。逆に、ストレスがかかっていても、ピロリ菌がいなければ潰瘍はできません。


最大の原因がピロリ菌であることが分かったことで、治療法も劇的に変化しました。昔は「何度も繰り返す厄介な病気」でしたが、薬による除菌治療で、再発率も本当に低くなったのです。重要なのは、胃酸の分泌をコントロールすること。最近では胃酸の分泌を完全に抑えられる薬も出てきており、治療はもちろんピロリ菌の除菌成績も向上しています。

ピロリ菌以外の病気の原因は?

ピロリ菌を原因とする胃・十二指腸潰瘍が減っている一方で、消炎鎮痛薬として広く用いられている「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」や、抗血小板療法に用いられる「低用量アスピリン(LDA)」による潰瘍が増えています。ただし、胃酸を抑える薬を一緒に服用すれば、胃・十二指腸潰瘍は十分予防することができます。

胃・十二指腸潰瘍はいずれ胃がんになるの?

胃・十二指腸潰瘍が胃がんになることはありません。しかし、胃がんの主な原因もピロリ菌ですから、ピロリ菌が原因で胃潰瘍になった人は、やはり胃がんになりやすいと言えます。また、除菌をしても、それまでピロリ菌がいた期間が長ければ注意が必要です。年に一度、胃カメラで検診することをおすすめします。


 「まだ若いから大丈夫」と思わず、ピロリ菌が見つかったらすぐに除菌しましょう。薬を1週間程度服用するだけで治療できますよ。